たぶん、その日、気持ちよく晴れていたからだと思います

柄本「あのシーンは、仕事だかバカンスだか、なんだかわからない感じがいいな、と思いまして。それで監督に“サングラスをかけたらどうでしょう”と提案して、実際にかけることになったんです」

 さらに、一度観たら忘れられない印象的なシーンでも、柄本さんの提案が生きていた。

ーーTバック姿を惜しげもなく披露しています。しかも色は、目の醒めるような発色のブルー。あのTバックは柄本さんにしか似合いません。

柄本「実は、最初に衣装さんが用意してくれたのは、黒いTバックだったんです。衣装合わせが終わって自前の服に戻るときに、“なんかもうちょっと明るい色がいいのでは?”と思いまして。

 衣装さんに“黒や白だとちょっと真面目すぎちゃうから、もうちょっと明るい感じの色はどうですか? 青とか、空色とか”と提案したんです。そしたら塩田監督がそれを聞いていて、バッと前に現れて“それ、いいと思います、それでいきましょう!”と」

ーー黒から青にCHANGEしたんですね。なぜ青系を提案したんですか?

柄本「たぶん、その日、気持ちよく晴れていたからだと思います」

ーー晴れていたから、空色のTバック! すてきですね! 役柄ともリンクして、とても印象的でした。

柄本「台本を読んだとき、この役はセリフのフィクション度が強いキャラクターだと感じて。そこから着想を得て、ゆるやかに立ち上ってくるものがあれば提案してみようかな、という発想で提案させていただきました」

 たかがTバック。されどTバック。役柄と真摯に向き合うからこそ、観る者が忘れられないディティールを生むのだ。

■えもと・たすく
1986年12月16日生まれ、東京都出身。オーディションを経て映画『美しい夏キリシマ』(2003年)で主演デビューし、第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第13回日本映画批評家大賞新人賞を受賞。2018年には「素敵なダイナマイトスキャンダル」「きみの鳥はうたえる」などに出演、第73回毎日映画コンクール男優主演賞、第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞ほかに輝いた。2023年は監督作の短編連作集『ippo』、そして『春画先生』が公開、冬には『花腐し』が控える。