嫌いだったものが大好きになる、っていうことがあるってわかった

 人生を変えるような体験「THE CHANGE」を教えてくださいと、真木さんに尋ねたところ、しばらく考えて出てきたのは、意外な一言だった。

「私って血管がすごく細くて、子どものときから注射がうまくいかなかったんですよ」

 この話はどう着地するのか。言葉を失ったわれわれをよそに、真木さんはこう続ける。

「小学生まで千葉の田舎の学校に通っていたんですけど、当時の健康診断って、生徒がみんな体育館に並ばされて、順番に注射されるんです。そこで必ず、私の番で止まるんです。

 医者が、私の体のいろんなところの血管を探しても結局ダメで、最終的に、足の甲に注射を打たれたんですよね。もう拷問かってくらい、ものすごく痛かったんです。注射を打ち終わったほかのみんなは整列していて、よう子ちゃんだけいつも遅れてる、みたいな雰囲気になっていて。

 そんなちょっとしたトラウマがあったんですが、のちのち東京に来て、とある大病院で注射を打つ機会があったんです。

 そうしたら、若い女性の看護師さんが注射を持っていて、正直、ちょっとナメてたんですよね。私の血管は難しいぞ、って。そしたらでもその看護師さん、若くてキレイな子だったんですけど、はいって感じで、一発でキメられて」

 身振り手振りで説明する真木さんの様子で、当時の感動が伝わってくる。

「きれいに一発で血管に刺さった瞬間、注射、気持ちいいって(笑)。その時まで、注射と言えば、何回も打ち直しするものだったし、痛い思いもたくさんしてきたので、本当に衝撃だったんです。

 その日から、人生が一変しましたね。注射、大好きになっちゃって。いま、東京で打たれる注射は大好きですね。嫌いだったものが大好きになる、っていうことがあるってわかったんです。そういうチェンジですね」

 取材の最後に「こんな話でよかったですか?」と気にかけてくれた真木さん。演技はもちろん、人間的な魅力も兼ね備えた彼女はこれからも輝きつづけるに違いない。

■真木よう子 まき・ようこ
1982年生まれ。2006年に、映画『ゆれる』で「山路ふみ子映画賞新人女優賞」を受賞し、2007年放送のドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)への出演を機にブレイク。2013年度の日本アカデミー賞では、映画『さよなら渓谷』で最優秀主演女優賞、映画『そして父になる』で最優秀助演女優賞のダブル受賞を果たす。近年の出演作は、『ある男』『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』など。10月6日には5年ぶりに主演を務める映画『アンダーカレント』が公開。

■作品情報 
『アンダーカレント』10月6日(金) 全国公開
■出演:真木よう子、井浦新リリー・フランキー永山瑛太江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央
■監督:今泉力哉『愛がなんだ』『ちひろさん』
■音楽:細野晴臣『万引き家族』『メゾン・ド・ヒミコ』
■脚本:澤井香織『愛がなんだ』『ちひろさん』、今泉力哉
■原作:豊田徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーンKC」刊)
■製作幹事:ジョーカーフィルムズ、朝日新聞社
■企画・製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ
■配給:KADOKAWA
■コピーライト:(c)豊田徹也/講談社 (c)2023「アンダーカレント」製作委員会