登場人物と対話しながら役をつくる
ときには「こういう人にはなりたくない」と思い、演じる前は気分が晴れないという山田さん。そんな役をあえて引き受けるのは、なぜなのだろう。
山田「今、このタイミングで自分にこの役を演じる仕事がきたのは、僕が表現して映像に残す理由がきっとあるはずなんです。
演じるってことは、観る人に“何かを感じるきっかけ”“変えるきっかけ”を届けている行為だと思うんです。僕が演じる役が、誰かの心に変化をもたらすきっかけになる。そのために自分は今、好きになれない登場人物を演じなきゃいけない役割があるのだろうって。だからこそ、全力で演じましたよ。
ただ、やっぱり、いざクランクインしてみると……。初めて動いて喋る瞬間まで、だいたい憂鬱なんです」
『唄う六人の女』の監督は石橋義正さん。『ミロクローゼ』(13)から10年ぶりにタッグを組む。一人で3役を演じ分けた前作とともに、山田さんに難題をぶつける印象がある。
山田「石橋監督は“そんな役、経験がない”ってチャンスをくださる方ですね。だから“絶対にやったほうがいい”と思い、お請けしました。監督は物理的に“ああしろ、こうしろ”とは言わない人で、けっこう任せてくれる。だからこそ、心の中で登場人物と話をしながら、自分で役をつくるんです。
今回も、演じる宇和島と対話しながら、彼を自分の中に取り込んで演じました。その時間は、やっぱり憂鬱です。人のいやな部分を自分で強調するわけですから。でもそうしないと、自然を破壊しようとするとどんな目に遭うかが、観ている人に伝わらない」
自分自身のCHANGEのみならず、映像作品が観客のCHANGEになるよう全力を傾けて演じる山田さん。確かに映画を観終わった後、外の景色がまるで違って見えた。
山田孝之(やまだたかゆき)
1983年鹿児島県出身。俳優、アーティスト、監督、プロデューサーなど多彩な顔を持つ。1999年俳優デビュー。2000年に放送されたNHK連続テレビ小説『ちゅらさん』、ドラマ版『ウォーターボーイズ』(03/フジテレビ系)、主演ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(04/TBS系)などで一躍人気に。映画『電車男』(05)で映画初主演。その後、『クローズZERO』や『闇金ウシジマくん』などがシリーズ化。作品ごとの徹底した役づくりに定評がある。2010年にはアメリカのハリウッド・レポーター誌による「世界の注目俳優10人」に選出。最新映画『唄う六人の女』では、車の事故の影響である美しい森に迷い込んでしまう男、宇和島を演じる。
●作品情報
映画『唄う六人の女』
ある日突然、40年以上も会っていない父親の訃報が入り、父が遺した山を売るために生家に戻った萱島(竹野内豊)と、その土地を買いに来た開発業者の下請けの宇和島 (山田孝之)。契約の手続きを終え、人里離れた山道を車で帰っている途中に、2人は事故に遭い気を失ってしまう。目を覚ますと、男たちは身体を縄で縛られ身動きができない。そんな彼らの前に現われたのは、この森に暮らす美しい六人の女たち。何を聞いても一切答えのない彼女たちは、彼らの前で奇妙な振る舞いを続ける。異様な地に迷い込んでしまった男たちは、この場所からの脱走を図るが……。
監督:石橋義正
出演:竹野内豊、山田孝之、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈、竹中直人、他
Ⓒ2023「唄う六人の女」製作委員会
配給:ナカチカピクチャーズ/パルコ
公開:10月27日(金)、TOHOシネマズ日比谷他、全国ロードショー
上映時間:112分
映倫指定:PG12
ヘアメイク:南辻 光宏 MITSUHIRO MINAMITSUJI
スタイリスト:飯田恵理子(CORAZON)
シャツ/¥59,400(税込み)/Y‘s(ワイズ) パンツ/¥50,600(税込み)/Y‘s(ワイズ)