身だしなみはお金の話と似たようなニュアンスだった
その体験が、君島さんが本格的に美容の世界へと針路を変えるきっかけとなった。それを察知したのか、女性ファッション誌『25ans』が、君島さんを特集し、初めてメディアで美容を語ったことだった。
君島「当時、女優さんたちが美の秘訣を問われると、“よく眠っています”“旬のものを食べています”くらいだったんですね。でも実際には、その女優さんたちは、スタジオにたくさんの化粧品を持ち込んでお肌のお手入れをしているのを私は見ておりました。やっぱり、本音と建前があるんだ、美しくなるには、それなりの努力が必要なんだ……というのを自分の目で見させていただき、私は自分が苦労をしたぶん、やってよかったことなどをちゃんとお伝えしたいと思ったんです」
ーーなぜ、ほかの女優さんは隠していたんでしょう。
君島「当時、美容を発信するのはメイクアップアーティストさんであったり、限られていました。それは、身だしなみを整える過程を、人前で晒すものではない、という風潮が強かったからです。ちょっとお金の話と似たようなニュアンスですね」
ーーたしかに、以前は、電車の中でメイクをする女子高生が、乗り合わせたご婦人に怒られるなんてこともありました。
君島「そう、行儀の悪い風潮だったはずなんですよ。いまはすっぴんを見せながらメイクを完成させる動画があふれていて、世の中が本当に変わったなと、すごく思います」
未開の地だった、女優が美容を発信するということ。君島さんがコンプレックスを克服しようとしなければ、令和の美容インフルエンサーたちは、生まれていなかったのだ。
君島十和子(きみじま・とわこ)
1966年5月30日生まれ、東京都出身。雑誌の専属モデルや女優として活躍後、君島誉幸さんとの結婚を機に芸能界を引退。マスコミに追われる日々を経て、1998年に『25ans』で結婚後初めて美容の記事が大反響。2001年に、現在クリエイティブディレクターを務める株式会社FTCの前身であるセレクトショップ「フェリーチェ青山」をオープン。美容の世界に舵を切り、多くの美容アイテムをヒットに導く。近年ではバラエティ番組にも出演し、公式YouTube『君島十和子チャンネル』やSNSでも精力的に発信中。2人の娘がおり、長女は元宝塚歌劇団月組娘役の君島憂樹さん。今年4月、9冊目となる著書『アラ還十和子』(講談社)を刊行。