ドラァグクイーンを目指していたわけではないです
90年代はゲイ雑誌『Badi』が創刊し、一般的には「ゲイブームが巻き起こった」という記事が散見されるが、一面的だったのかもしれない。
「“普通のゲイの人”の存在をもちろん知らないわけで。だから、ドラァグクイーンに憧れることはなかったと思うけど、ゲイである以上、自分でもなにかやりたいなと思ったときに、女装をしたり、化粧をしたりすることは、ライン上にあったことだとは思います」
ミッツさんはけっして女装自体を否定的に話しているわけではなく、「“ドラァグクイーンになりたい”とかは、うちら世代はない」と念を押す。
「だって、誰かがすごい成功をしたわけでもないし、職業として確立されていたわけでもないから。みんなが自分の中に抱える変態性をアウトプットしたときに、ドラァグクイーンの範疇で表現ができあがった人たちが、結果、ドラァグクイーンとしてカルチャーを作った、というだけ。みんな、そこを目指していたわけではないです。
それで、ある程度頭数が揃って、カルチャーとしてシーンが出来上がったところに、それを見た今の若い子たちが“ドラァグクイーンになりたい”と」
ーー時代が変わり、憧れの存在になったという側面もありますか?
「それは全然わからないですけれど、存在として確立されれば、それを景色として見る世代が自然に出てきた、ということじゃないですか。私たちは目標にしようとしていなかったし、カルチャーだけあってマーケットはなかったし、需要がそもそもないカルチャーだったので。
おそらく、LGBTのほうにお話を繋げたいのはわかるんですが、そういうのじゃない気が、私は最近しているんですよ」
これまでさまざまなメディアで見聞きしたり、インタビューなどで問われる「時代の変化」に、違和感を持っていたのかもしれない。当事者だからこその「そういうのじゃない」というミッツさんの言葉を、噛み締めなければならない。
ミッツ・マングローブ
1975年4月10日生まれ、神奈川県出身。幼少期をロンドンで過ごし、帰国後、慶應義塾高校に入学。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、英国ウェストミンスター大学コマーシャルミュージック学科へ留学する。20代中盤より、新宿二丁目でドラァグクイーンとして活動をスタート。『5時に夢中!』(TOKYO MX)、『スポーツ酒場 語り亭』(NHK BS1)、『GINZA CASSETTE SONG』(BS-TBS)にレギュラー出演中。2005年に同じく女装家のギャランティーク和恵、メイリー・ムーとの女装歌謡ユニット「星屑スキャット」を結成し、2012年に『マグネット・ジョーに気をつけろ』で配信デビュー。精力的にリリース、全国ライブツアーを行っている。