「俳優の私生活がにじみ出ちゃっていても、しょうがないと思います」

 幾人もの女性に、それぞれの女性が求める物語を、文学的な香りのする言葉で語って聞かせる中条。そうして貢いでもらいながら、スーツをパリっと着こなし、紳士然としつつも、昭和の雰囲気漂うアパートに住み続けている彼は、なんとも浮世離れしている。

 ほかの住民たちに比べて、中条だけは地面から数センチ浮いて見えるのだ。そんな中条を、東出さんが見事に演じて、まるで東出さんそのものかのように見えてくる。

 不思議なことに、同じく今年公開された話題作『福田村事件』で、村の男たちと距離を置く渡し守の倉蔵、『飛べない風船』での妻子を亡くした漁師の憲二など、山で暮らす東出さん自身の実生活を活かしたような役柄もまた、東出さんそのものが滲んでいるかのように映る。それぞれが全く異なる性質の役柄なのに、である。 

「俳優の私生活がにじみ出ちゃっていても、しょうがないと思います。その人物になってさえいれば、全部の作品に差異は生まれると思っています。
 僕、作品を観た感想で、“東出は、東出のままだった”と言われることが多いんです。“東出にしか見えなかった。すごく東出っぽい役柄だった”と。でも、たとえば『福田村事件』の倉蔵と僕は全然違います。そもそも生きている時代も違う」