上品で柔和な微笑みが「やさしいお母さん」のイメージを後押しする、俳優の市毛良枝さん。一方で、キリマンジャロ登頂や南アルプス単独縦走を成し遂げるなど、本格的な登山愛好家としての顔も持つ。豊かな人生経験がにじみ出る市毛良枝さんの、THE CHANGEとは。【第2回/全5回】

市毛良枝 撮影/三浦龍司

 日々、全国各地の劇場で上演される舞台作品。俳優の市毛良枝さんも、12月12日に朗読会『あなたがいたから~わたしの越路吹雪』の上演が控えるが、今年の春まであった、この先の未来への閉塞感を振り返りながら話す。

「コロナ禍中は、“演劇を続けるなんてなにごとだ”とずいぶん責められて。それで私たちはほんとうにつらい思いをして。“私たちの職業って、続けちゃいけないんだろうか”“廃業しなくちゃいけないのかもしれないね”と真面目に思った人も、いっぱいいました」

「でも」と、市毛さんは、舞台上から目の前に広がる光景を思い浮かべながら、こう続ける。

「そんなことはないんですよ。演劇が再開されたとき、そう確信しました。あの空間は、役者と観客、両方がいてこそで、その場を共有しているんです。観客はイスに座っているだけじゃないんだよね、と、客側として思ったこともあったんですよね」

ーー客席で感じたこともあったんですね。どんな舞台でしたか?

「ほとんどの劇場が閉鎖して、なにもかもが中止になってしまったとき、公演を続けている人ももちろんいて、それはSNSでは“殺人と同じじゃないか”とまで言われていたんですね。そういった時期を経て、少しずつ再開されたきた頃、ある役者さんが歌のコンサートをなさるというので、友達に誘われて行ったんです。とても怖かったけど、行きました」