山とこの仕事って、似ているなあ

「山に行くとゴミが捨てられないことがすごくリアルなんですよ。だから都会でもゴミを捨てることに対して意識していると、“真面目なんだね”“女優のくせにゴミの話?”と言われちゃう感じ。“ああ、ここではゴミの話はできないんだな”と思う一方で、山仲間とはそういう話ができるんです。山には、楽しいと思えるし、ステキだと思えることがいくらでもある」

ーー居場所、だったんですね。

「そうですね。馴染めないと感じる世界に長年いて、山という楽しい場所を見つけてやっとバランスが取れた気がしたんです。そしてもうひとつ、最近気づいたことがあって」

ーーなんでしょう?

「山とこの仕事って、似ているなあと。山も芝居も、そこに身を置いて自分の肉体を使うからこそ見える感動があるんです。汗をかきながらつらい思いをして登っているところに、風が吹いたり匂いが漂ってきたり、確実に、受け取るものがある。芝居もそうなんですよ。

 私は、感動がしたくてこの仕事を始めました。自分たちが感動しなかったら感動していただけないから、感性を駆りたててやってきました。一方で、ルーティンになっていくところもあるじゃないですか。ルーティンになって“早く楽になればいいのに”と思うこともある、けど、そうじゃないんだなと」

 芝居も山も、五感を駆使した先に感動が待っている。両者の醍醐味を知っているからこそ、市毛さんの言葉は、聞くものの五感を刺激してくれるのだろう。

■いちげ・よしえ
静岡県出身。文学座付属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年にドラマ『冬の華』でデビュー。俳優としてドラマ、映画、舞台と幅広く活躍すると同時に、芸能界随一の登山愛好家としての顔も持ち、NPO法人日本トレッキング協会理事を務める。2024年2月に新刊「73歳、ひとり楽しむ山歩き」が発売予定。

■音楽のある朗読会『あなたがいたから~わたしの越路吹雪~』
作:井出真理
演出:鈴木聡
音楽:滝澤みのり
出演:市毛良枝
バイオリン:伊藤友馬
チェロ:福井綾
ピアノ:滝澤みのり
2018年に「帯ドラマ劇場」で放送された『越路吹雪物語』(テレビ朝日系)。昭和の大スター越路吹雪役を大地真央が、そのマネージャーであり稀代の作詞家・岩谷時子役を市毛が演じ話題となったが、それから5年の時を経て、岩谷時子没後10年となる今年、市毛が再び岩谷として愛と葛藤の日々を語る。12月12日に古賀政男音楽博物館内けやきホールにて上演。当日券販売あり。詳細はアミューズHP内市毛良枝オフィシャルサイトまで。