こんなに楽しいことがこの世にあるのか
久しぶりに会いたい人の顔を思い浮かべるが、30年の経過が会うことを躊躇する要因となった。
「もうリタイアしているかもしれないし、とか、会いに行って“あなた誰?”みたいな顔をされるのも寂しいし。それで、以前ほど“よし、◯◯さんに会いに行こう”とはならなくなってきています。やっぱり30年ってすごい時間だなって思いますよ。だから今回書くことは、ワクワクしながら登っていた時代とはちょっとちがうものだと思います」
ーー気兼ねなく行っていた当時は、山に対してどんなワクワクがあったのでしょう。
「40歳で出会って、こんなに楽しいことがこの世にあるのかと思ったんです。私は”芸能人”ではなく“俳優”ですが、たまたま“芸能人”と言われてしまう仕事をしています。でも、そう呼ばれることになかなか馴染めないんですよ。まったく派手ではないし、目立つのが得意じゃないというか。だから、そういうことが楽しい人たちとお話をすると、同じことが楽しいと思えなくて。“私って、異質なのかな。この仕事、向いてないのかな”と思っていたわけです」
でも、山は違った。市毛さんが「楽しい」「ステキ」と思うことを、「楽しい」「ステキ」と思う人だらけだったという。
「すれ違った人と、“そこに◯◯草が咲いていたよ”“ほんとうですか!?”と言葉を交わしたり。知らないおじさんと“この花、キレイですね”“キレイだろう?”なんて言い合ったり。おじさまも、こんなにちっちゃなお花に感動するんだ、みたいな。感動が一緒なんです」
特に、当時、仕事場と山で顕著な違いがあったのが、ゴミに対する認識だった。