上品で柔和な微笑みが「やさしいお母さん」のイメージを後押しする、俳優の市毛良枝さん。一方で、キリマンジャロ登頂や南アルプス単独縦走を成し遂げるなど、本格的な登山愛好家としての顔も持つ。豊かな人生経験がにじみ出る市毛良枝さんの、THE CHANGEとは。【第3回/全5回】

市毛良枝 撮影/三浦龍司

 アフリカ最高峰のキリマンジャロ、そして「世界の屋根」ことヒマラヤ山脈の5000Мを超えるヤラピークなど、数々の登頂経験を持つ市毛良枝さん。登山を始めてから30年以上が経ち、現在、山に関するエッセイを執筆中だという。

「最近また、“本を出しませんか?”とお声をかけていただきました。最初に書いたのは1999年、『山なんて嫌いだった』というエッセイです。前からずっと“また書いてください”と言っていただいていたんですが、母の介護があったり、山にもなかなか行きにくいし、書けなくて。“ムリムリムリムリ!”って。母は遊びに行きたい人だったので、母を置いて“山に行ってきます”というのが申し訳ないというか、言いにくかったんです」

 市毛さんは、2004年、そして2005年に脳梗塞を発症した実母の介護に、2016年に見送るまで尽力した。それからも「昔より行く頻度も減ったし」と執筆に消極的だったという。

「そうしたら、今度はほかの出版社から依頼があったんです。最初に話をくれた方にそれを伝えると“僕は市毛さんの山の本が出るなら、どこから出てもうれしい”と言ってくださって。それで今、校正作業中なんです」

ーーこれまでは、登頂した山ひとつひとつに関するエッセイや、ガイドブックのような本も書かれています。今回はまたちがうのでしょうか。

「そうですね。いまは以前と比べて行く山も少ないし、初登頂の話を振り返って書こうにも、もう30年も経っているので、感じ方が当時とはだいぶ変化していますしね。30年……って、またすごいことだなあと思いますよ。出会った当時は青年だった小屋主さんが、引退する年なんですよ。もう息子さんの代になって、“先代!”なんて呼ばれていて、“ええー!”って思って」