“お姫様”から自立した女性へ
それまで何気なく楽しんでいた遊びの中に、違和感を見つけたのもこの頃の経験のおかげだった。
「『家族合わせ』という遊びがありました。紙で作った男の子や女の子がいたり、服を着せたり、職業に関するパーツをもたせたり。それで“魚屋さんの家族作る”とかやって。たいていが、父と母、子どもが男の子と女の子のふたりで、いわゆる日本の平均世帯。
でも中学に入学して名簿を見ると、親の名前がひとりという子もいて、そこで初めて“そういう家族もあるんだ”と知って、“あの家族合わせは、ウソだよね”と、中1で思ったんです。親の庇護下から離れたからこそ、“うちの家族が必ずしも『普通』ではない”と」
“お姫様”から自立した女性へ変化を遂げた市毛さんは、「信頼して手放してくれたからこそ、“ひとりでしっかりしなきゃいけない”という自立心が芽生えた」と、両親の意図をおもんぱかる。
いま、控えめな自然光が差し込む窓に送る、凛とした眼差しは、きっとこの頃から変わっていないだろう。
■いちげ・よしえ
静岡県出身。文学座付属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年にドラマ『冬の華』でデビュー。俳優としてドラマ、映画、舞台と幅広く活躍すると同時に、芸能界随一の登山愛好家としての顔も持ち、NPO法人日本トレッキング協会理事を務める。2024年2月に新刊「73歳、ひとり楽しむ山歩き」が発売予定。
■音楽のある朗読会『あなたがいたから~わたしの越路吹雪~』
作:井出真理
演出:鈴木聡
音楽:滝澤みのり
出演:市毛良枝
バイオリン:伊藤友馬
チェロ:福井綾
ピアノ:滝澤みのり
2018年に「帯ドラマ劇場」で放送された『越路吹雪物語』(テレビ朝日系)。昭和の大スター越路吹雪役を大地真央が、そのマネージャーであり稀代の作詞家・岩谷時子役を市毛が演じ話題となったが、それから5年の時を経て、岩谷時子没後10年となる今年、市毛が再び岩谷として愛と葛藤の日々を語る。12月12日に古賀政男音楽博物館内けやきホールにて上演。当日券販売あり。詳細はアミューズHP内市毛良枝オフィシャルサイトまで。