シンセサイザーがもたらした音楽の新しい制作方法

「今ではもう当たり前なんですけど、実際に楽器を演奏して録音するのではなくて、シンセサイザーなどを使ってデータを作り、それを、当時でいうとフロッピーディスクに記憶させていく、いわゆる打ち込みという音楽の制作方法がでてきたんですね。

 日本で最初に始められたのは冨田勲さんやYMOなんですが、彼らはもちろんプロのミュージシャンなので、打ち込みでも音楽を作りますが、実際に楽器も演奏できますし、弦楽器のために楽譜を書くような、音楽家としての基本的な知識やテクニックがあるわけです。

 ところがその打ち込みという技術がだんだん一般化していくと、そういった音楽家としての基本的な知識やテクニックが無くても、普段からたくさん音楽を聴いていてセンスがあったりすると、なんとなく曲ができるようになってきたんですね」

新垣隆 撮影/片岡壮太

 近年ではDesktop Musicこと「DTM」と呼ばれる、パソコン上に音符や休符を置くことで曲を作っていく音楽制作手法もメジャーになってきている。

「そういうやり方で彼はある程度曲を作ることができるようになり、その映画の音楽の仕事を勝ち取ったんです。ですから最初その映画のテーマとなるようなメロディーっていうのは、シンセサイザーの打ち込みで彼が作っていました。

 それを元にして自分がアレンジしていくような形で作業を始めたんですが、段々と私の担当する部分が増えていって、徐々にそのバランスと関係性が変わっていってしまったんです。

 結果的に、全て自分で作ったと言い張ってしまったんですよね。私のことはあくまでもアシスタントであるというふうに紹介して」