20代で経験した「完成形を度外視した」特別な世界

「20代でつかこうへい先生の舞台『熱海殺人事件・平壌から来た女刑事』に出演しましたが、これがほかではあまりない経験でしたね。毎日本番が始まってもセリフは変わるし、エンディングも”今日はこれでやるから”とそのつど渡されても、”やはり、やめておこう”となったり。いい経験でした」

ーー話を聞くだけで泣きたくなります……。

「つかこうへい先生の本は当て書きなので、稽古場でもどんどん変わるし、終わって帰宅して、朝に最新版がファックスで届いて、それを覚えて稽古場に行っても、また違う。だからエンドレスです。完成形は一応あるものの、そういうことを度外視したところで作り上げていく……そんな世界でした」

 想像を絶する現場に、黒谷さんは弱音を吐く暇もなかった。

「“せっかく覚えたのに”なんて言っている場合ではなくて。瞬間瞬間を乗り越えてましたね。つかこうへい先生は特別な存在の方なので、そういう方とクリエイトする機会をいただけただけで、すごくよかったと思うし、大きな意味があったのではないかと思っています」

 衝撃をともなう大きな経験を経て、30代になると、「いろんな自分を楽しんだ」と話す黒谷さん。

「似合うもの、好きなもの、好きな世界観などがわかってくる時期ですよね、30代って。広がっていく世界の中で、自分のものにするかしないか、選択する自由を感じたのが30代でした」

 そして、昨年12月に48歳を迎えたばかりの黒谷さんにとって、現在進行系の40代とは?

「20歳のときに40代・50代の方を見て、ステキな方々ばかりで憧れていました。“こういう人になりたいな”と思っていたんです」

ーー40代・50代の方をロールモデルとしていたんですね。

「20代で憧れていた方々を参考にしながら、自分自身を作っていくのを楽しむ……というのが40代・50代じゃないかなと思います」

ーーどういった方に憧れを抱いていましたか?

「本当にたくましくて、強くて、センスがいい人、ですね。そういう方々に“今までどうやってこられたんですか?”と話を聞くこともありますが、そういうときに思うのが、“私たちが若かった頃は、女性が活躍していくには大変だったよ”と。そんな時代を切り拓いてこられた方だからこそ、かっこいいんですよね」

 中でも、感銘を受けた女性の話があるという。

「その方のお父さんから言われたそうで。“さみしいと思ったら、星を見ろよ”、という言葉です。その人は“何かあったら星を見ていた”と言っていて、そういうの、いいな、と思ったんです」

 黒谷さん自身も、千葉の自宅の庭で、星を見ては彼女のことを思い出す。そして、宇宙の中のちっぽけな自分に思いを馳せているのだという。

■黒谷友香(くろたに・ともか)
1975年12月11日生まれ、大阪府出身。高校在学中に『mc Sister』の専属モデルオーディションに合格してモデルデビュー。その後、女優としてさまざまな話題の作品に出演し、近年は『波よ聞いてくれ』(テレビ朝日系)をはじめ数々のドラマや映画に出演。1月11日よりスタートした特撮ドラマ『牙狼<GARO> ハガネを継ぐ者』(TOKYO MX、BS日テレ)にレギュラー出演中。放送中のドラマ『チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ』(テレビ東京系)にも出演している。
https://www.tv-tokyo.co.jp/chasergamew/

特撮ドラマ『牙狼<GARO> ハガネを継ぐ者』
原作:雨宮慶太
監督:松⽥康洋、⽥中佑和、⽊村好克
アクション監督;鈴村正樹
脚本:兒玉宣勝、吉﨑崇⼆
出演:栗山航、仲野温、中澤実子、黒谷友香、萩原聖人
放送期間:2024年1月~3月
放送局:TOKYO MX、BS日テレ
製作/制作:東北新社