「デスクワークが絶対的に向かない、というのは自分自身、わかっていたんです」

 坂東さんは、学生の頃から自分自身で脚本を書いたり、クレイアニメーションを撮影したりと、さまざまな表現をしてきた。
 
「色々やらせてもらううちに、今度はどうやれば人に見てもらえるだろうかとか、これで飯を食えるかとか、そういったことを考えるようになっていきました」
 
――表現の方向にですか? なぜだったんでしょう。
 
「デスクワークが絶対的に向かない、というのは自分自身、分かっていたんです。それこそ小さな子どもの頃から。何かを作ったり、絵を描いたり、写真を撮ったり、クレイアニメを撮影したりといったことも、単純にそれが好きだったこともありますが、とにかくじっとしていられないんですよね」
 
――大学に行くことは。
 
「まったく選択肢にありませんでした。それで、高校を卒業したら、お金を貯めるためにすぐに北海道を出て、旅館の仲居として働き始めたんです」
 
――いきなり住み込みで働くというのは、勇気がいることだと思うのですが。もともと人に会って話したり、知らないところに飛び込むことが好きだからでしょうか。それともお金がよかったから?
 
「いや、別にお金がいいわけじゃないです。ただ住み込みなので、使うこともないから貯まってはいきました。お金が貯まったら東京に行って、役者になりたいというのは決まっていました。住み込みならお金も貯まるし、いろんな人を見られるからいいんじゃないか、と思ったんです。だから動機はトトと一緒ですね」
 
 トトというのは、現在公開中の映画『一月の声に歓びを刻め』で、坂東さんが演じている、漫画家を目指す青年トト・モレッティ。イタリア映画『息子の部屋』の登場人物に由来する名を持つ彼は、レンタル彼氏のアルバイトを続けている。
 
「トトがなぜレンタル彼氏をしているかというと、漫画に生かすためなんですよね。出会った人の似顔絵を描いて、いろんな人間のバリエーションを増やしている。アルバイトをしていると、いろんな人が来てくれるから。
 旅館も、お客さまのほうが来てくれるわけです。それに接客業だから人とコミュニケーションを取る必要がある。チェックインして、次の日チェックアウトするまで、そのお客さまを責任持ってご案内して楽しませる。むちゃくちゃ勉強になりました」