「狭い場所を通り抜けて開けた場所に出たら、オレンジ色の夕陽がぶわーっとこちらを射していて、その光を見た瞬間に帰る時間も忘れて遊んでいた子どもの頃の感覚がグワっと蘇ったんです。その瞬間に涙が溢れてきて、子どもたちに“どないしたん?”と心配されて(笑)。なんかもう細胞から何かが滾ってくるようなものすごい体験で、“パーフェクトはここにある!”と感じましたね」

 “探検ごっこ”から子どもの頃の感覚が蘇ったという経験は、桐谷さんの人生にどんな影響を及ぼしたのだろうか?

「5歳の頃は『グーニーズ』を観てワクワクして、そこからずっと夢見心地だった。でも大人になって俳優になってからは、少しずつ“褒められたい”とか“目立ってやるぞ”といった力みが出てきたというか。それは決して悪いことではないけれど、周りの評価が気になったり、純粋な思いに余計なものがくっついてきた感覚があったんです。それで、探検ごっこに参加した時に、何かを足して100点にするんじゃなくて、余計なものを削ぎ落としていった無垢な自分にパーフェクトがあるんだと気づいたんです。あれは衝撃でしたね。あのとき子どもたちについていってよかったです」

普段から力を抜けば一気にギアを入れられる

 大切なことに気づいた後、コロナ禍でさらなる変化があったという。

「コロナ禍が始まって、一回全部仕事が白紙になり、不謹慎かもしれませんがその時にスッと体が軽くなって、“ああこの感じ、ずっと忘れてたな”。すごく心地が良かったんです。それで、今までめっちゃ力が入っていたんだなと気づいて。なんていうか…ずっと力んでいたら大事な時にギアを入れられなかったりするけれど、普段から力を抜いていれば必要な時に集中して一気にギアを入れることができるんですよね。そして本当は何でもできる。それってすごく大切なことのような気がします」

 近年はドラマ『インフォーマ』『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』『院内警察』、そして現在放送・配信中の『連続ドラマW 坂の上の赤い屋根』など、主演作が続いている桐谷さん。現在の自身の状況をどう捉えているのだろうか?

「40代になって主演作が増えました。力を抜いたぶん余白ができたこともあって、楽しみながらお仕事しているうちに自分のやりたいことが明確になり、アイデアもどんどん湧いてくるようになったんです。あと、嫌なことを選択しなくてもいいことにも気づけました。『坂上の赤い屋根』のような興味を惹かれるお仕事を直感で選んでいけば、もっともっと俳優人生が充実していくと思いますし、逆に事務所が“こういう作品はどうですか?”と投げてきたボールを思いっきり打ち返してホームランにしたい。そんなふうに、これからも一個一個ワクワクしながらお仕事していけたらいいなと思います」

 自身の可能性を信じ、これからも大きく羽ばたこうとしている桐谷さん。今後どのような役を演じ、新しい魅力を開花させていくのか楽しみで仕方ない。

 

桐谷健太(きりたに・けんた)
1980年生まれ、大阪府出身。02年俳優デビュー。07年、『GROW愚郎』で映画初主演。20年、ドラマ「ケイジとケンジ~所轄と地検の24時~」で民放ドラマ初主演。近年の出演作に、映画『ラーゲリより愛を込めて』(22年)、『アナログ』(23年)、ドラマ「インフォーマ」(23年)、「院内警察」(24年)などがある。

■作品情報
桐谷健太最新主演作
「連続ドラマW 坂の上の赤い屋根」
3月3日(日)午後10時より放送・配信スタート(全5話)
【WOWOWプライム】【WOWOW 4K】にて放送(第1話無料放送)、【WOWOWオンデマンド】にて配信

原作:真梨幸子「坂の上の赤い屋根」(徳間文庫)
監督:村上正典
出演:桐谷健太 倉科カナ 橋本良亮 蓮佛美沙子 斉藤由貴 他
製作著作:WOWOW
https://www.wowow.co.jp/drama/original/akaiyane/