『マジすか学園』では何十人といる生徒の中のひとり

――その忙しいなか、お芝居をしてみたら楽しくなっていったと。

「そうです。AKB48に入って、いろいろなことを覚えることに必死で辛いことが多かったのですが、その中で、ドラマに出させてもらったときにすごく楽しいと思えたんです」

――最初に楽しいと思えた瞬間は。

「最初に『マジすか学園』※に出たときです。何十人といる生徒の中のひとりでした。朝4時くらいに集合して、撮影が始まったのは夜の9時くらい。みんなでずっとレジャーシートの上で寝ながら待機していました。めちゃめちゃ大変だったはずだし、その結果も一瞬しか映らなくて、それもほんの隅っこ。でもそれがすごく嬉しくて。自分が“ドラマに出てるんだ!”って。テレビっ子だったんです。それでドラマがすごく好きで。歌番組に出るよりも、ドラマに出ることのほうが嬉しかったんですよね」

※AKB48、およびその姉妹グループの主演で制作された学園ドラマシリーズ。

――現場よりも出来上がった映像を見たときに嬉しかった?

「両方です。現場も嬉しかった。『マジすか学園』に出られますと言われた瞬間、すっごく嬉しくて。セリフも全然ないし、本当に何十人いるなかのひとりでただ立ってるだけだったんです。でもすごく嬉しくて楽しくて。出来上がった本編を見ても、たぶん2秒映ったかどうかくらいだったんですけど。引きの画の端っこで。それでもめちゃくちゃ嬉しかった。“お芝居したい!”と思ったきっかけです」

――「もっと映りたい!」と?

「もっとちゃんとお芝居したいと思いました。その時には、人に見てもらいたいとか、見た人に何か感じて欲しいとか、そういったことまでは思っていなかったのですが。ただお芝居をして、ドラマに出たいと思っていました。今は、“面白いです”“毎週楽しみにしています”と言ってもらえることがすごく嬉しいです。舞台も“観に行くのを楽しみにしています”とか、私が演じていることで、その人の生活が少しでも楽しいものになったり、潤ったりしていたら、嬉しいなと思うようになりました」

――当時、「ちゃんとお芝居したい!」と思ったその気持ちは、周囲に伝えたのでしょうか。

「いえ、言わなかった、言えなかったです」

――そうなんですか? 今の川栄さんには、「朝ドラのヒロインを演じる」「大河ドラマに出たい」と言ったことを言葉にされて、実現してきた有言実行の人という印象があります。

「もともとは言えるタイプじゃなかったんです。でも『マジすか学園』が自分たちの世代がメインになっていったりして、出させていただく機会も増えて、思いが強くなっていきました。どんどん俳優になりたいという気持ちが大きくなっていって『ごめんね青春!』※に出させてもらったときに、卒業を決意しました。同世代の役者さんたちと一緒にお芝居をさせてもらって、学ぶことが本当にたくさんありましたし、楽しいなという思いがより強くなったので、“お芝居がしたいので卒業します!”と気持ちがはっきりしました」

※(2014年、日本テレビ放送のドラマ。宮藤官九郎のオリジナル脚本による学園コメディで、主演を錦戸亮が務めた。川栄さんは錦戸さん演じる主人公の高校教師が受け持つクラスの生徒のひとりを演じた)

――では、自分の気持ちをはっきりと伝えられるようになったのは、逆に言うと、やりたいことがはっきりと見えるようになったから、言葉も出てくるようになったのでしょうか。

「そうですね。それまでやりたいことも特になく、目標も特にありませんでした。だから俳優としてやっていくと決めた瞬間、自分自身が変わったのだと思います」

「芝居」に出会って、目標を見つけ、自分自身をつかんだ川栄さん。そこからいまへと道が続いている。