民生はAIはいらないんです(笑)
翔吾「時代小説にも流行り廃りがあるから、ミステリーの世界と似てますよ。僕は海音寺潮五郎さんが好きなんだけど、今だと “面白いのか、これは”という感想を抱く人が多いかもしれない。淡々とし過ぎてるから」
昌弘「音楽でも、だんだんとこういうブームが戻ってきたな、なんていうことありますか?」
川西「ありますよ。ロックンロールがまた戻ってきたなとか、パンクがきて、またハードロックがきたな、とか。みんな大変だよね。曲を書くときに、どんなふうにしようかなって考えてね。僕ら以外はみんな考えてると思うよ(笑)。昔、ビートロックが流行ったことがあったけど、そのときにやっていたバンドはそれしかできないんだよね。昔も今も、僕らの作風は変わっていない。ただメンバーが年をとっただけでね(笑)」
翔吾「時代に合わせにいくと、振り回されて消えちゃう気がする。だから、それが正解じゃないんですかね」
川西「テクノロジーの進化はあるけどね。昔は、特にドラムは生音だから、小さい音がよければ小さいスタジオで、大きいのが欲しいなら大きなスタジオで録ってたけど、今は、小さいスタジオで録って、じゃあ、エコーをこのくらいの大きさにって指定したら、コンピューターで再現できちゃう。
だから大きなスタジオがどんどん潰れたりしているんだけど、僕らは、そういうレコーディングのやり方は違うんじゃないかと思ってるんだよね。レコーディングって、曲を録ってはいるんだけど、そのときのメンバーの空気を録ってるんじゃないかなって。だからいまだにデカいスタジオでやってます。料金は高いし、無駄なんだけどね(笑)。
この間出した『ええ愛のメモリ』っていうEPは、メンバーの昔の声をデータで取り込んで作ったんです。民生の声なんて、ものすごく若い(笑)。民生に、どう? って聞いたら“いや、別にAIを使わなくても、今でも出そうと思ったら若いときの声は出せるよ”って言ってたな。民生はAIはいらないんです(笑)」
翔吾「AIといえば、今回の芥川賞の受賞作がAIで書いた部分があるということで話題になりましたね。昌弘さん、どうですか、AIで書くというのは」
昌弘「このことはよく聞かれるんですけど、果たして読み手がどれだけの審美眼を持っているかっていうことだと思うんです。今、イラストとかが一番影響を受けているんじゃないですかね」
翔吾「音楽もそうですよね」
昌弘「音楽だったら、この場面に音楽を付けたいとなったときに、以前は人に依頼していたのに、それがいらなくなっていたりする。“ちょっと欲しいなあ”くらいの人が欲するクオリティがAIだと思うんです」
翔吾「ウェブのライターさんの仕事が奪われたりね。でも、芥川賞の受賞作に使われたっていうのがね」
昌弘「そもそも作品の中にAIが登場して、そのAIとの会話部分に使ったという話なんです」
翔吾「誤解されているけど、AIのセリフをAIに作らせたっていうことなんですよね」