本格ミステリーはAIがいちばん苦手な分野!?

昌弘「恐らく、本格ミステリーの分野というのは、文芸の中ではAIの影響を受けるのが一番遅いんじゃないかと思います」

翔吾「かもしれないね。AIが殺害の方法を考えられるようになったら怖いよ。密室トリックとか、ほうぼうでやられてしまう(笑)」

昌弘「本格ミステリーって、これまでに行われてこなかった解決とかトリックとかが必要とされているので、ビッグデータで、今までの作品をどれだけ解析されたところで、そこから抜けたアイデアのものを生み出さなければいけない。それって、AIがいちばん苦手な部分だと思うんですよね」

翔吾「この間、AIの専門家の方に聞いたら、僕の作品のデータは半年前までのものは取ってるって言ってましたね。夏目漱石なんかは全部AIに吸収されたらしい(笑)。そのうち、指示されたらAIが“今村翔吾風”を書くらしいですよ」

昌弘「AIにいちばん影響を受けるのが、短いセンテンスで構成されているものですよね。詩とか俳句とか。ほとんどの人は、なぜその言葉が選ばれて、すばらしい作品になるかはわからないんですね。だから、AIがなんとなくの雰囲気で言葉を選んできても “えー、すごーい”って思ってしまう」

川西「僕らは『ええ愛のメモリ』でAIを使ったけど、遊びで使うぶんにはいいかなと。ミステリーが、これまでのすべてのデータを使って書いたらすごい密室ができるかといったらそうはならいっていう話と同じで、音楽も、今までのデータを使ったら、それなりに面白いものはできるのかもしれないけど、それを使って“絶対にヒットを狙ってやる”とかいうのは違うよね。政府の政策だって、新しいものはAIには絶対に作れないと思う。人間にしかできない部分があるからね」

翔吾「『星新一賞』っていう文学の賞があるんです。これ、AIを使って応募してもいい賞なんですよ。いわゆるアマチュアの人が応募する賞で、千編以上の応募がある。この一次審査にAIが作った作品が通ったりするんですよ」

昌弘「ショートショートも短いセンテンスで構築されているから、意味はわからないけど、この文章エモいね、っていうふうになるんでしょうね」

翔吾「一次審査で落とされる人って多いから、AIに負けた人が大量にいることに。正直言って侮れなくはなってきてるよね。でもまだ負けへんよな!」

昌弘「一度、AIに“新しいトリックを考えて”って打ち込んだことがあるんです。そしたら、適当なストーリーをばーっと書かれて、最後に“実は驚きの真相があったのである。”とか(笑)」

翔吾「それを教えろやっていうね(笑)」

(つづく)

■川西幸一(かわにし・こういち)
1959年広島県生まれ、広島県在住。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退し、バンドは同年9月に解散。2009年にユニコーンが再始動。最新アルバムは「クロスロード」。時代小説の大ファンとしても知られ、年間百冊近くを読破する。

■今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。2017年に発表したデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。『童の神』で第160回直木賞候補、第10回山田風太郎賞候補。『八本目の槍』で「週刊朝日」歴史・時代小説ベストテン第1位、第41回吉川英治文学新人賞を受賞。『じんかん』で第163回直木賞候補、第11回山田風太郎賞受賞。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。最新作は『戦国武将伝(東日本編・西日本編)』(PHP研究所)。

■今村昌弘(いまむら・まさひろ)
1985年長崎県生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、放射線技師として働きながら小説を書き、2017年『屍人荘の殺人』で第27回九鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。同作は「このミステリーがすごい」で1位を獲得し、神木隆之介、浜辺美波の主演により映画化された。ほかに『魔眼の匣の殺人』、『兇人邸の殺人』、『ネメシスI』。最新作は『でぃすぺる』(文芸春秋)。