人気ロックバンド、ユニコーンの川西幸一と、2022年に『塞王の楯』(集英社)で直木賞を受賞し、コメンテーターや書店経営者などの顔も持つ作家の今村翔吾。恒例となった2人のトークイベントに、デビュー作『屍人荘の殺人』(東京創元社)がいきなりの大ヒットを飛ばし、本格ミステリー界の寵児となった今村昌弘が加わった。レジェンド級のミュージシャンと人気作家2人によるトークバトルは、音楽業界と作家業界が共通に抱える問題点などにも及び、白熱したものになった。【第2回/全8回】
川西幸一(以下川西)「『屍人荘の殺人』にゾンビが出てきたときは、これはミステリーなのか? という疑問が沸いたんだけど、その状況を密室に使うっていうのがね」
今村翔吾(以下翔吾)「やっぱり、街を歩いているときでも、どうやったらこの道具で悪いことできるかとか考えてるの?」
今村昌弘(以下昌弘)「僕は普段はそういったことは口にしないんですけど、大ベテランの有栖川有栖先生とご一緒したときに“今村君、アレはトリックに使えそうじゃない?”とか、すごくおっしゃってたんですよ。この人の頭の中は、つねにミステリーで溢れているんだと思いました。よく、ミュージシャンの方はメロディや歌詞が降ってくる、なんて聞きますけど、どうですか」
川西「いや、ないです(笑)」
翔吾「ないんだよ、この方は(笑)」
川西「考えようとしては考えるけどね」
翔吾「僕だったら、連載が始まるとなったら、主人公をとりあえず走らせる。1行目は山道とかを物理的に走らせます。主人公が走っている間に、次の展開を考えるという(笑)。警察小説はミステリーに入るの?」
昌弘「入りますね。それこそ、証拠がないとダメじゃないですか。どういうふうに大切な情報を隠して、ラストに突き進むのかっていうのが腕の見せ所ですよね」
翔吾「今野敏先生の作品に、死体のネイルの素材がどうのこうのって書いてるのがあったんですよ。絶対、銀座で女のコとしゃべって書いてるなって思ったんだけど、そんな感じでどんどん新しいことを取り入れようっていうのはある?」
昌弘「新しい技術が出てきたらそれを組み込んだりしますね。最近だとドローンとか。ただ、トリックに新しい技術を取り入れるのが美しいかどうかっていうのはありますね。そこで読者から厳しい突き上げがくるときもあります。結局、“この殺人ができますよ”っていう道具を作っただけじゃないかってなるんです。ミステリー作家は、じゃあこの道具をどうやって使ったら面白い事件になるのかっていうのを考えて書かないとダメですよね」
翔吾「大変やな~ミステリーは」
昌弘「時代によって、必要とされたり人気を博すミステリーというのは、ちょっとずつ変わっていくし、戻ってくるんですよね。“新本格ミステリー”は今から三十数年前に流行ったんですけど」
翔吾「綾辻行人さんとか」
昌弘「あと京極夏彦さんとか。その当時は、松本清張さんとかの社会派ミステリーが人気だった時代なんです。当時の書評を見ると“新本格ミステリー”はボロクソに言われているんですよ。大手出版社の編集長たちの座談会で“まだあんなのを書いている人がいるんだね”とか、バンバン書かれている。社会問題がクローズアップされると、そういうことを取り込んだミステリーが必要とされるし、だんだんとそういったことに疲れてくると、パズル的なことが求められるようになるんですよね」