すごい光景でした。冷静ではいられなかったです。

――結果的に銀獅子賞受賞作の主演男優ですから、そのときサインをもらった人はラッキーですよ。上映のときにも8分間のスタンディングオベーションがあったとか。

「あれは本当に不思議な体験でした。濱口さんが撮られる映画は僕もすごく好きですし、価値がある作品だと思いますが、自分が参加した作品となるとやっぱり客観的には観られないものです。笑えるシーンとかもどんどん分からなくなっていきますし。スタッフでさえそうなのが、今回は自分が主演として出ていて、平常心ではまだ観られないところを、ああやって評価していただいて、本当に不思議な気分でしたし、監督・スタッフがいいと、こういうことが起きるんだなと思いました」

――銀獅子賞を受賞した受賞式では、審査委員長を務めたデイミアン・チャゼル監督(『セッション』『ラ・ラ・ランド』『バビロン』)から呼ばれたんですよね。どんな感覚でした? 「この人がデイミアン・チャゼルなんだ」とか。

「思いました、思いました。本来、濱口さんだけが壇上に行く予定だったはずなんですけど、“濱口さん、おめでとうございます”といった感じで見ていたら、“大美賀さんも来るんだよ”と呼んでくれたので、ほいほい行きました(笑)」

――それは行かないとですね。

「すごい光景でした。トロフィーを一緒に持たせていただいて、結構重くて、緊張してるし夢心地だし。冷静ではいられなかったです」

シナリオハンティングの際に、その“佇まい”が良かったと濱口監督から主演に抜擢されたという大美賀さん。本編では森に生きる寡黙な主人公に見事に同化しているが、目の前の大美賀さんは、人を惹きつける愛らしさのある人だった。

 

大美賀均(おおみか・ひとし)
1988年生まれ。桑沢デザイン研究所卒。助監督として大森立嗣監督『日日是好日』、エドモンド・ヨウ監督『ムーンライト・シャドウ』等に参加し、濱口竜介監督の『偶然と想像』では制作を担当する。2023年には、自身が初監督した中編『義父養父』が公開された。

●作品情報
映画『悪は存在しない』
企画・監督・脚本・編集:濱口竜介
企画・音楽:石橋英子
出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁 ほか
(C) 2023 NEOPA / Fictive
配給:Incline 配給協力:コピアポア・フィルム
4月26日(金)より全国順次公開