妻の思いがけないひと言で芸人を辞めるのをやめた

 そして結婚から9年目の2022年、時間がかかりすぎたことに耐えられなくなったのは、街裏さん自身だった。

「金銭的なことをはじめ、いろいろとほんまに負担をかけていたので、けじめをつける意味で芸人を辞めようと思ったんです。それで嫁に、“芸人を辞めようと思う”と言いました」

 妻はためらいなく言った。

「そんなにバイトが続かないヤツが、一般社会で働けるわけがない。一般社会をナメるな。19歳から芸人しかやってきていないんやから、芸人しかムリや。なんとしてでも芸人の世界にしがみついて、稼いできてくれ!」

 街裏さんのことを誰よりも理解し、誰よりも信じていた妻の言葉は、街裏さんを芸人の世界にとどめるには十分すぎる力があった。

「背中を押されました。それで、”じゃあ、2023年もやらせてくれ、本気でやります!”と。それでなにかしらの意識が変わったんでしょうね、独演会を辞めずに続けてきたり、たまに入るメディアの仕事も全力でやって、仕事が徐々に増えていったんです」

――R―1グランプリで優勝したとき、どんな反応だったんでしょう。

「僕は優勝した瞬間、無意識に涙が出て崩れ落ちていったんですけど、嫁も画面越しに同じ体勢で泣きながら崩れ落ちたらしいんです。とにかく喜んでくれて、最近までずっと“信じられへんけど、優勝したんやな”と言っていました。“世に出るのに時間がかかる”とわかっていたけど、でもせいぜい4、5年くらいやと思っていたんでしょうね、"まさかこんなに時間がかかるとは思わんかった”と言っていましたね」

 最近はこんなことを言うという。「まだわからない。まだ売れたということにはならへんから。ここからどれだけがんばっていけるかやな」と。やはり、街裏さんを奮い立たせ続けるには、十分すぎる言葉なのだった。

街裏ぴんく(まちうら・ぴんく)
1985年2月6日生まれ、大阪府出身。学生時代に漫才コンビを組んだのち、2007年からピン芸人として活動。2017年8月『JUNK爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)の第二回地下芸人まつりで優勝。2022年2月、『Be―1グランプリ』で優勝し、芸歴制限が撤廃となった『第22回R―1グランプリ2024』(フジテレビ系)で優勝を果たした。5月に東京と大阪にて第十七回 街裏ぴんく漫談独演会「一人」を開催。

■公演情報
澤部渡(スカート)×街裏ぴんく『VALETUDO QUATRO 2024』

・名古屋公演:名古屋クラブクアトロにて7月24日(水)19時開演
・大阪公演:梅田クラブクアトロにて7月23日(火)19時開演
・東京公演:渋谷クラブクアトロにて8月5日(月)19時開演

チケットは5月11日(土)より各チケットプレイガイドで一般発売開始
前売4500円(1ドリンク要オーダー)