監督を天職とし、俳優を適職とする
周囲の猛烈な引き留めに奥田さんは一旦考え直し、50歳になったら監督をやるということにした。その間は、それまでと同じように俳優をやり続けていたが、自分の中でどうにも納得がいかない。そこで考え付いたのが、「監督を天職とし、俳優を適職とする」ことであった。
それから、今日までの四半世紀ほどは監督と俳優の二足の草鞋で生き抜いてきた。その間、自身の中で俳優業に対して向き合い方に変化があったという。
「やっぱり、本当にやりたいもの(役柄)って、“人間として、どうなんだ”ということに向き合えるような役。そこにサスペンス的要素が盛り込められてると、演者である自分も自然とテンションが高くなる……もっと言えば、エンターテイメントがありながらもバーンと射貫くようなものをやりたいなって」
撮影現場では俳優という適職を全うしようとする奥田さん。一俳優として、近年は”モノを作る“ということに対してのスタッフの心構えに疑問を感じることもある。
「最近はオファーの話を戴いて“スケジュールが埋まっていて……”とお断りすると、“そうですか”で終わっちゃう。そういうやり取りを電話やメールだけで終わらせている俳優側にも問題があると思うけど、今回の『かくしごと』はちゃんと熱意があって、直接説明をしに、事務所へ来てくださって。それで受けてから、こちらも準備を整えなきゃいけないという自己責任が生じて臨むわけだけど、そうすると自ずと意気込みも違ってくるんですよ」
今回出演した映画『かくしごと』はひとことで言うとヒューマン・ミステリー。奥田さんが演じたのは主人公・千紗子の父で認知症を患っている孝蔵役だ。
「認知症のことは僕の妻である安藤和津さんのお母さんが13年ぐらい認知症を患っていて、僕もお世話をしたりして、経験していますから身近には感じていました。でも今回のお話は、けっして認知症だけの話じゃないんですね。主人公の女性は過去に傷を抱えているんですが、ある日一人の少年を救ったことから、ひとつの物語が生まれ、もうひとつの物語の柱として娘と認知症の父の話があって。そこに僕の存在がどう成立して、物語が進んでいくか……というところに惹かれて、この映画に参加したいなと思いました」