“本に関わる人たち”への好奇心によって開いた作家への扉
いわゆるミーハーな気持ちが、すべての始まりだった。それともうひとつ動機があった。それは「編集者ってどういう人なのだろう」という、素朴な好奇心であった。
「作家さんはネットで顔写真とかプロフィールを見ることができますが、作家さんを支える編集者っていったいどんな人なんだろうって。それまでの私は“編集者”っていったら『サザエさん』に出てくる伊佐坂先生の担当・ノリスケさんぐらいしか知らなかったし(笑)。作家さんも100人いれば100人違いますが、編集さんもそうなのだろうかって興味があったんですね」
講座の記事を見たことで作家への道が始まった……ということは、別の言い方をすれば、その記事に出合えなかったら作家にはなっていなかった……?
「たぶん、そうですよね。それこそ作品を投稿するとか、自分が小説を書くということはなかったと思います。講座に通っていた当時も、作家になりたいとか、なれるとも思っていなかったですね」
講座に通っているうちに、関係者からテープ起こしや聞き書きの手伝いの話が舞い込んでくるようになった。
「プロの作家さんと編集さんとの対談を素起こし(書き起こし)して原稿にまとめる、という仕事でしたが、それならできるかもしれないって思ったんです。単純に作家さんと編集さんがどんな会話をしているのかを聞いてみたいなって感じだったんですけど(笑)。そんなお手伝いをさせてもらって、実際の原稿には削られている部分が多いんだなという発見がありました。そっちの方が面白いのになんで削ったんだろう……と思ったこともありましたね」
そのうち、 “自分でも原稿を書いてみたい”という気持ちが芽生えてきた。
「そういった経験を重ねていくうちに、私が見聞きしたもの、感じたもの、嬉しかったり怒りを覚えたことを、昔から好きだった小説で表してみようかなって思ったんです。最初はちょこちょこって書き始めたのがきっかけでしたね。いま思えば、あれは大きなチェンジですよね」
そして、‘07年に山形新聞社主催の「山新文学賞」に応募し、『待ち人』が入選。このことがきっかけとなり、柚月さんは小説家としてのスタートを切った。
柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)
1968年生まれ、岩手県出身。‘08年『臨床真理』(宝島社)で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。’13年『検事の本懐』(宝島社)で第15回大藪春彦賞、‘16年には『孤狼の血』(KADOKAWA)で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編賞部門受賞)。同年には『慈雨』で「本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10」で第1位を獲得した。他の著書に『盤上の向日葵』(中央公論新社)、『合理的にあり得ない』(講談社)、『月下のサクラ』(徳間書店)、『教誨』(小学館)、『ミカエルの鼓動』(文藝春秋)、『風に立つ』(中央公論新社)などがある。
◆作品情報
映画『朽ちないサクラ』
https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie/
原作:柚月裕子『朽ちないサクラ』(徳間文庫)
監督:原廣利
脚本:我人祥太、山田能龍
出演:杉咲花、萩原利久、森田想、坂東巳之助、駿河太郎、遠藤雄弥、和田聰宏、藤田朋子 豊原功補、安田顕
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
(C)2024映画「朽ちないサクラ」製作委員会