「逃げたくなかったんです」オファーを承諾した理由
ーーオファーを受け、出演を決めたことに、どんな理由がありましたか?
「もしこれを断ったら、“俳優として、あのとき俺は逃げたな、と思うだろうな”と考え、逃げたくなかったんです」
昭和を震撼させた阿部定事件をモチーフにした『愛のコリーダ』は、人間の愛欲を映画表現のなかでかぎりなく描いた作品として知られ、藤さん演じる吉蔵と松田暎子さん演じる定の情交が無修正で映し出された。海外ではノーカットで上映されたものの、日本では性的なシーンが大幅にカットされ、さらにわいせつ物頒布罪で大島監督らが検挙起訴され、のちの裁判では「わいせつ物にあたらない」とされ、無罪となった経緯がある。
さまざまな視点からの賛否を呼び、藤さん自身も「(風当たりが)強かったと思います」と自覚していた。
「日本の映像表現の限界を越えることをやったわけで、“嫌いだ”という人もいれば、“好きだ”という人もいた。でも、“怖いからやらない”というのは、自分に対して恥ずかしいんだよ。心の傷になるんだよ。まあ、傷があるのもかっこいいんだけどさ」