大人と子どもの観客との違い

――学校訪問コンサートでは、どういう部分が印象に残っていますか?

「僕が“世界で一番好きな食べ物は餃子なんだけれど、みんなは何が好き? ”って聞いたら、子どもたちが一斉にバーって答えてきた。学校訪問コンサートで学んだことは、子どもたちにはイエスかノーという選択式の質問しかしてはいけないっていうことですね(笑)。

 僕は、就職活動もしたことがないし、子どもみたいな天真爛漫な心を持ったまま大人になってしまった。だから子ども達との距離感も、大人と子どもという感覚を抱かなかったんです。大人のお客様は僕にとってはお金を払ってコンサートに足を運んでくださっている。

 でも、子どもたちは学校の芸術鑑賞会という名目でコンサートを“見せられている”から、僕にとっては一番の難敵だったわけです。僕にとっては、それが楽しかった。いつも“さよなら”というのが悲しくなるくらい、子どもたちと楽しい音楽の時間を過ごしています」

岡本知高 撮影/三浦龍司

 学校訪問コンサートには、岡本さんならではの哲学があった。

「芸術って素晴らしいとか、歌ってこんなに楽しいって押し付けるのがすごく嫌なんです。好きな服を着た歌うことが好きなお兄ちゃんが、大人になってソプラノの声で歌っている。それを子どもたちが見てくれている。

 それが僕にとっての名刺代わりというか、学校訪問のコンサートなんです。だから大人向けの公演と、感覚としては何ら変わらないと思っています。音楽の先生って子どもたちに与える立場だと思うんですが、僕は子どもたちと音楽の共有をしたい」