ふと気づいたら、木村多江はテレビや映画に欠かせない俳優として存在していた。映画では作品ごとに違った顔を見せ、テレビでは、ドラマはもちろんのこと、NHK教養番組ではナレーションやナビゲーターを務め、『LIFE〜人生に捧げるコント〜』などではコメディエンヌとしての才能を発揮。最新作のドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』では、小学6年生の息子を持つ、大阪の“お母ちゃん”を演じる彼女には、何度もCHANGEの瞬間が訪れたという──。【第3回/全5回】

木村多江 撮影/有坂政晴

映画『ぐるりのこと。』が“心のよろい”を外すきっかけに

 1999年に放送された連続ドラマ『リング〜最終章〜』『らせん』(フジテレビ系)で注目を集め、‘03年の『白い巨塔』(フジテレビ系)で俳優として揺るぎない評価を得た木村多江。’08年に公開された、映画『ぐるりのこと。』では、橋口亮輔監督から指名を受け、生まれたばかりの子どもを亡くす母親・翔子を演じることになる。

「それまでのわたしは、撮影現場に行っても緊張と不安が大きすぎて、役としては泣いたり怒ったりするけど、本当の自分は絶対に見せない役者でした。常に、よろいを着けて闘っている、みたいな。でも、『ぐるりのこと。』では、そのよろいを脱ぎ捨てようと決めて、撮影に臨みました。生身の自分をさらけ出してみよう、と。
 そうすることで、段取り……ここで立ち止まって振り向くとか、そういうことができなくなるくらい、精神的に追い込まれてしまったんですけど、その中で気づいたんですね。役者はさらけ出すことが仕事なんだ、って」

木村多江 撮影/有坂政晴