伊丹十三、ボブ・ディランに影響を受けた

 あと、高校2年のときに読んだ伊丹十三の『女たちよ!』というエッセイは衝撃でした。17歳の僕にとってまさしく『啓蒙』の書でした。『女たちよ!』から強く影響を受け続けます。6年くらいずっと手元に置いて、軽く20回以上は読み返してましたから、章のタイトルを読むだけで内容を話せるほど『精通』してましたね。女性に出会うたび“これを読むといいよ”と手渡していたくらいです。

 音楽的には、ボブ・ディランの存在も大きかった。僕も音楽を志したこともあり、見よう見まねで曲を作って歌ったりしていたんですが、歌が不細工でソウルフルじゃなくて(笑)。そんなとき、ボブ・ディランを聴いて“こういうスタイルがあったのか”と驚愕しました。彼はあのスタイルを発明したというか、本能とセンスで選び取ったのだと考えたのです。そんなふうに、僕という人間のベーシックな部分ができあがっていった気がします」

 小学生のころの運命的な「気づき」が売野さんを大きく変えた。その思い出を丁寧に振り返る姿は、売野さん自身が経験した人生の「深み」を感じさせられた。

(取材・文/キツカワユウコ)

うりの・まさお
 1951年2月22日生、栃木県出身。上智大学を卒業後、広告代理店に入社。コピーライター、ファッション誌の編集長などを務めたのち、1981年にシャネルズ(のちのラッツ&スター)の『星くずのダンス・ホール』で作詞家として活動を開始。翌年、中森明菜の『少女A』の作詞を担当、以来チェッカーズ、河合奈保子らに歌詞を提供、現在に至るまでその歌詞が多くの人に愛されている。