怒る相手がいなかったんです
以降、お客や技術スタッフをはじめ、自分以外の誰かを慮ることが、染み付いた。
「舞台では、"このタイミングで、このセリフを言い終えたら音を出す”とか“照明をつける”とか、事前に覚える段取りがあると思いますが、僕は一切ないんですよ。初めて会う照明スタッフさんにたいへんな思いをしてほしくないので、舞台上からはっきり言うんです。"すいませーん、音だしてくださーい!”って。お客さんは演出だと思うんですが、演出じゃないんです。たいへんな思いをしてほしくないから、普通に言うんです」
ーーどうしたらそんなに他人を思いやれる境地に達するんでしょう。普段、怒ったりすることもなさそうですよね。
「怒るってどういうこと? デカい声で怒鳴るとか? そうだなあ、怒る前にイジけるかもしれないなあ。でもね、だいたい14,5年くらいストリップ劇場で下積みしていましたが、怒る相手がいなかったんですよ。怒ってもどうにもならないしね。20歳から32,33歳くらいでしょ、そこでいまの感じが固まったような気がするんだよね」
まわりのお姉さんたちの中には、戦時中に生まれた人もいた。マギーさんは、ままならなさや理不尽さを認識する間もなく生きてきた人たちと生きてきたのだ。
「その時代って、生きるために裸になって踊っていたんですよね。お姉さんたちも、お姉さん同士でケンカをするけど、すぐに仲直りしてカラッとしている。理屈じゃなく、家族間のきょうだい喧嘩みたいな感じでさ。ケンカをしてもみんなで鍋を食べたら仲直りする。理屈じゃないんですよね」
そんなマギーさんでも、怒るときは怒る。一般的には「怒る」の部類に入らないかもしれないが、一応は怒る。
「別に用事はないんですけど、弟子を誘うじゃないですか。“お茶飲まない?”とか言って。そのときに"え?”と返事されたことがあるの。そうするとさ、断られたと思うわけじゃん!」
ーーお気持ちはわかります(笑)。
「言葉を知らなかったのか、なんなのかわからないけどさ。しばらく経ってから“キミさ、僕がお茶に誘ったとき、『え?』って言ったよね。今度キミから誘われたとき、僕も絶対に『え?』と言うからね”という仕返しをするんですよ!」
ご本人いわくの「怒る前にイジける」を体現しているようだ。白黒つけがちなこのご時世において、マギーさんの「理屈じゃない」には、多くの学びが詰まっている。
(つづく)
マギー司郎(まぎー・しろう)
1946年3月17日生まれ、茨城県出身。1968年、正統派マジシャン・マギー信沢に入門。1980年に『お笑いスター誕生!!』(日本テレビ系)で7週連続勝ち抜きしたことを機に、テレビでも活躍。翌年、放送演芸大賞ホープ賞を受賞。2004年に出演した『課外授業 ようこそ先輩』(NHK総合)が話題となり、同番組は同年に日本賞「教育ジャーナルの部・東京都知事賞」を受賞した。親しみやすい芸風と茨城なまりのしゃべりで、老若男女に愛される存在。『笑点』(日本テレビ系)2016年時点での最多出演者。
【イベント情報】
歌って元気!笑って健康!
秋の演芸フェスティバルVOL.1
●日 時:2024年9月17日(火) 開場14:00 開演15:00
●会 場:渋谷区文化総合センター大和田さくらホール(4F)
●入場料:全席自由4,800円
●問合せ:プロジェクトドーン
E-mail:projectdawn123@gmail.com
●主 催:プロジェクトドーン
●協 力:(有)プロモーション・ススム
(株)ジョリーアンリミティッド