たった2か月の間に、大きい後ろ盾を2人も失ってしまった

 そしたら、おじの(十四代目)守田勘弥が「俺のところに来ればいいから」って声をかけてくれたんですが、同じ月の千秋楽で、今度は勘弥が倒れてしまい、3月に亡くなってしまいました。僕はたった2か月の間に、大きい後ろ盾を2人も失ってしまったんです。

 しばらくは父のところに戻って、一緒に舞台に出ることになります。その当時、父が実際に歌舞伎に出ていたのは一年のうち半分くらいで、あとは「商業演劇」をやってました。そこで、大川橋蔵さんや萬屋錦之介さん、山本富士子さん、林与一さんといった方々とご一緒させてもらったりしていました。

 ところが、僕が25歳のときに、今度は父が亡くなってしまうんです。

 実はその半年ほど前、「もっと外で勉強したいから、市川猿之助さんのところに行きたい」と、病床の父に相談したことがあったんです。

 昨年、亡くなった二代目猿翁さん――当時は三代目猿之助さん――は、革新的な舞台を次々と演出するスターでした。親戚からは大反対されていましたけど、父は「いいんじゃないか。お前が行きたいと言うんだったら」って言って、病院から猿之助さんに電話を掛けてくれたんですよ。

 僕のキャリアで、それもひとつのターニングポイントでしたね。

 それで、一から勉強するつもりで、猿之助さんの元に行きました。猿之助一座に入ったものの、入門して部屋子になったわけではない。他のお弟子さんみたいに「旦那」と呼ぶのもしっくりこないから、猿之助さんのことは「ボス」って呼んでましたね。

坂東彌十郎(ばんどう やじゅうろう)
1956年5月10日生まれ。東京都出身。坂東好太郎の三男。73年歌舞伎座『奴道成寺』の観念坊で初舞台。78年名題昇進。1981年から15年間、三代目市川猿之助(二代目猿翁)の一座に。猿之助演出の舞台で演出助手を務め、坂東玉三郎の「夕鶴」では演出も手掛けた。その後は平成中村座にも参加。近年はドラマ『クロサギ』(TBS)、『VIVANT』(TBS)、『VRおじさんの初恋』(NHK)などの映像作品にも出演している。

映画『スオミの話をしよう』
三谷ワールド全開のミステリー・コメディ!
著名な詩人・寒川(坂東彌十郎)の妻・スオミ(長澤まさみ)が行方不明になった。やがて、寒川邸にはスオミの過去を知る4人の男たち(西島秀俊松坂桃李遠藤憲一、小林隆)が次々と集まってくる。男たちはスオミについて語りだすが、彼らの思い出の中のスオミはバラバラで……。三谷幸喜が5年ぶりに監督を務めた最新作。
配給:東宝
(c)2024「スオミの話をしよう」製作委員会
9月13日(金)より全国公開。