大事なのは現場の温度

 これも勝さん流の講義でした。「いいか、今の顔を覚えておけよ。あれが本当に驚いたときの顔だ」

 勝さんは演技指導でも一生懸命セリフを覚えていくのを嫌いました。前日に稽古し、それを冷蔵庫に入れるから、現場がヒヤッとする。大事なのは現場の温度だと教えてくれました。でも、その頃の僕はそれを理解していませんでした。

小堺一機 撮影/イシワタフミアキ

 浅井企画に入ったのは、勝アカデミーを卒業してからです。でも、大将(萩本欽一)の番組に出られるほど、この世界は甘くありません。そもそも大将は僕や関根勤さんのように、学校の人気者がそのままテレビに出てきたような素人が嫌いなんです。だから、会ってもくれませんでした。

 それで、仕事のない僕と関根さんは下北沢のライブハウスでコントをしたりしてたんです。それを知った大将が、やっと会ってくれることになりました。世田谷の自宅に行くと、金魚鉢に餌をやっている寝ぐせ頭のおじさんが大将でした。

 話してたら、いきなり「ハイ、出入りで一番前に出ちゃった、弱いヤクザ」と言い出すんです。僕が「えっ、弱いヤクザをやるんですか?」と聞いたら、「ハイ、0点」。関根さんが「てめえら、女房子供はいるのか、おお!」とやったら、「芝居なら60点、コメディなら30点」。それから2時間ずっと「笑いとは何か」について話してくれました。

 やがて『欽ちゃんのどこまでやるの!?』(テレビ朝日系)に呼ばれ、関根さんと「クロ子とグレ子」をやって少し売れ始めたんです。

小堺一機(こさかい・かずき) 
1956年1月3日。千葉県生まれ。専修大学在学中に『ぎんざNOW!』の「素人コメディアン道場」17代目チャンピオンとなり、芸能界入り。『欽ちゃんのどこまでやるの!?』で関根勤と組んだ「クロ子とグレ子」でブレイク。以降、テレビ、映画、ラジオ、舞台などジャンルを超えて活躍する。」