<ある事件をきっかけに音楽活動を封印し、質素に暮らすかつてのロックスター>を描いた映画『はじまりの日』。主人公の「男」を演じた中村耕一さん自身が「半分くらい僕ですね」と語るように、JAYWALKとして大ヒットを飛ばし、自らの事件により一線から姿を消した中村さんのヒストリーと重なる。映画初主演となる本作に挑むことになった思い、そしてそこに重なる「THE CHANGE」は――。【第3回/全3回】

中村耕一 撮影/有坂政晴

 中村耕一さんにとっての「THE CHANGE」。転換点についてうかがうと、少しだけ間を空けて、丁寧に語り出してくれた。

「いっぱいありますよね。あれが転機だったんだなという時期は何か所かあるんですけど、やっぱり一番大きいのは、事件後ですね。事件を起こした時点で、僕はもう全て終わったと。もうこれで全て終了と思いました。多大な迷惑をいろんな人たちにかけて、取り返しのつかないことをしてしまったんですけど、逆にそのことによって助けてくれる人だったり、なんていうんでしょうね…気にかけてくれてる人がたくさんいて、そういう大事な存在に気付くことができたのが大きな転機かな、と思います」

 2010年3月に覚せい剤取締法違反(所持)で逮捕。JAYWALKの脱退は2011年の3月10日。東日本大震災の前日だった。

「活動を停止した直後に震災があって、すぐに東北に向かって、いろいろとお手伝いをさせてもらったんです。石巻で物資を運び終わってから炊き出しを手伝っていたんですけど、ある避難所で配膳をしていたら、同世代ぐらいの年配の女性の方が1人いらっしゃって、「何人分ですか?」と聞いたら「1人です」と。その時点で想像できますよね。事情なんて絶対聞かないです。もちろん聞かないですけど、そういう年配の方が「1人分です」って言うということの意味はわかります。で、その女性が僕のことに気づいて、「この状況を見てわかるでしょ。私もここにいる人たちも、家族も何もかも全てなくした」と。その後に「でも、あなたには歌があるでしょ」って。本当にそれだけ、それだけの会話なんですけど、それがずっと僕の中で響いてて。その言葉が巡って巡って巡って巡って…。僕の中ではあの瞬間は忘れられないです」