歌舞伎界のプリンスも家では意外な一面も

──歌舞伎界と聞くと、遠い存在に思いがちですが、みなさんのほのぼのとした仲の良さが伝わってきて嬉しいです。でも右近さんの私生活がどんな感じなのかは、やっぱりイメージが湧きません。

「家では全然だらしなくて、“あと10分したら動く”と思いながら1時間動かないとか、しょっちゅうですよ。セリフを覚えなきゃいけないのに、台本もギリギリまで開かなくて、表紙をずっと見ています」

──台本といえば、2021年の『燃えよ剣』以降、映画への出演も重ねています。右近さんには、歌舞伎と清元の二刀流のイメージがありますが、さらにお母さま方の祖父は昭和の映画スター、鶴田浩二さんなんですよね。つまり映像界の血もすごい。おじい様の映像作品を見ることもありますか?

「日常的に、何か映画を見ようかなというときはもちろん、映画に出させてもらうときには、必ずおじいちゃんの映像を見ます」

──そうなんですね。なにか影響を受けたり、CHANGEはありますか?

「歌舞伎は、確実に伝わるお芝居を選択することが多いと思います。自分自身の思いというより、歌舞伎の演技・手法として、ビックリするなら“はーっ”と大きく伝わるようにする。映像のお芝居は全然違います。グッと旨味を閉じ込めたような、圧縮鍋のようなお芝居。10代前半くらいまで、僕はそういった芝居に触れたことがなくて、20代に入ってからいろいろな表現があるんだなと知って、触れるようになりました。おじいちゃんのお芝居を見たときも、最小限の表現に驚きました」

──そこから今でもよく見ていると。

「戒めにもなるというか。おじいちゃんのお芝居を見ると、やりすぎないようにしようと思います。それにきっと自分にも、抑えた表現ができるはずだという、自分の可能性を信じるための作業とも言えます。歌舞伎の大先輩のお芝居も見ながら、おじいちゃんのお芝居も見て、両側から刺激を受けています。確実に、自分の中にDNAとしてその両方があるわけだから。ちゃんと生かさないと、と」

生まれた星のもとにあらがうことなく、しっかり受け止め、生かそうと向き合う右近さんの強さを感じる。

尾上右近 撮影/有坂政晴

尾上右近(おのえ・うこん)
1992年5月28日生まれ、東京都出身。曽祖父は六代目尾上菊五郎。母方の祖父は俳優の鶴田浩二。’99年、7歳のときに舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で初舞台を踏む。’04年に新橋演舞場『人情噺文七元結』で、二代目尾上右近を襲名。’18年には浄瑠璃唄方の名跡、清元栄寿太夫を襲名した。’21年に映画『燃えよ剣』で映画初出演を果たし、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。歌舞伎のみならず、映画やドラマなど映像作品にも活躍の幅を広げている。近年の主な出演作品は、NHK大河ドラマ『青天を衝け』、映画『ヘルドッグス』(2022)『わたしの幸せな結婚』(2023)『身代わり忠臣蔵』(2024)。最新作の『八犬伝』にて、三代目尾上菊五郎を演じている。待機作に映画『十一人の賊軍』、劇場アニメーション『ライオン・キング:ムファサ』。
スタイリスト:三島和也(Tatanca)
ヘアメイク:白石義人(ima.)

映画『八犬伝』
原作:『八犬伝 上・下』山田風太郎(角川文庫刊)
脚本・監督:曽利文彦
製作総指揮:木下直哉
出演:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、渡邊圭祐、鈴木仁、板垣李光人、松岡広大、水上恒司、佳久創、藤岡真威人、上杉柊平、河合優実、栗山千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇斗、立川談春、寺島しのぶ、黒木華
配給:キノフィルムズ