実在の人物を演じることについてどう思うか

 そして、丹野さんは実在の人物。現在も若年性認知症の啓発にかんする講演を行っているのだが、和田さんに実在の人物を演じることへのプレッシャーについてたずねると、「たとえば...たとえばですよ。徳川家康豊臣秀吉織田信長を演じたりなど、いろいろ時代劇があるじゃないですか。そういった人物を演じるほうが怖い。」と意外にも思える答えが返ってきた。

和田正人 撮影/小島愛子

「いろんな人の家康像、秀吉像、信長像がありますし。ものすごいレベルで世の中が知ってるから。
 ただ、丹野さんを知ってる人は家族しかいないんです。仕事の関係者、同級生とか、おそらく何百人かぐらいですから。逆に思い切ってやれるな、と。実在の人を演じるってけっこう難しいところもあるんで、ある種、自分の心も考え方も思い切って、そこは勇気を持って飛び込んでやるしかない。

 試写会が終わってエンドロールも終わって拍手が鳴ったとき、丹野さんがちょっと後ろにいらっしゃって、大号泣していて。むしろその姿を見てみんなが泣くっていう。

 丹野さんは“本当に俺だ”っておっしゃっていただけたんですけど、それを見た時に僕ももうもらい泣きしました。」と、和田さんは丹野さんとの心温まるエピソードを感慨深げに思い出す。