最初はTBSドキュメンタリー映画祭に出すだけという話だった
――もともと最初は劇場用映画になる予定ではなかったんですよね?
「まったくその予定じゃなかったです。最初は『あさチャン!』や『情報7days ニュースキャスター』に出演して、そこから『情熱大陸』に出たくらいで。映画と聞いたときは“映画!? まさかでしょ!”って(笑)。はじめは断ってましたけど、そこまで追いかけ続けてくれてたすごくいい素材を穂坂監督は持ってるし、とにかくファンに観てもらえるならと。それに最初はTBSドキュメンタリー映画祭(※)に出すというだけの話だったんです」
※本作の前身である、森さんの2年間を追ったドキュメンタリーが「TBSドキュメンタリー映画祭2023」で上映された。
「それが終わったと思ったら、またすぐにオファーが来て、“復帰戦まで追いかけさせてください”と。僕の体調のせいで、映画祭で上映したものは、復帰戦まで収められなかったんです。まあたしかに、ファンのみんなが観たいのは、復帰戦までかなと、それで“お任せします”と。そのかわり“ずっこけないでくださいよ”ってお願いしたんですけどね(笑)」
――ずっこけるどころか、さらに1年の密着と周辺へのインタビューなどを加えた本作は、全国60を越える映画館で上映予定ですし、内容も非常に見ごたえのあるものになっています。加わった取材の中には、森さんの落車の際、ともに落車した後輩の新井恵匠選手の姿もありました。心の傷が伝わってきて、見ているほうも辛かったです。
「一緒に転んじゃって。レース中の出来事だから、本当にどっちも悪くない。でも恵匠が心に傷を負ってしまった。あのときもSNSでいろいろ言われたらしくて、元気もなかったし、グレードレースに乗ったときに“森さん、すみませんでした”って、(本編にも収録。会見で)みんなの前で言ったときも、すぐに“そんなことはないから。お互い様だから、一緒に走れる日を楽しみにしてる”って、レース場にFAXを送ったんです。だから僕が復帰することで恵匠も喜んでくれると思いました」
2023年4月6日の復帰戦。傍らには朝から終始寄り添う新井選手の姿があった。
「恵匠はレースがなかったんですけど、僕の手伝いで来てくれて。レースや、練習を金網から見てくれている姿も、今回、映画で見て。本当にグッときちゃいました。僕の知っているオートレーサーとしてのいろいろ全てを教えていきたいです。ゆっくりとね」
周囲との関係からも、森さん、その人が浮かび上がってくる。
(つづく)
森且行(もり・かつゆき)
1974年2月19日、東京都出身。川口オートレース所属。96年、トップアイドルグループ「SMAP」からオートレーサーへ転身し、 97年にデビュー戦で勝利。翌年には新人王に輝く。7年目にGⅡ、13年目にGⅠを制覇し、同年、所属する川口オートでランキング1位となった。 2020年11月にはSG日本選手権で優勝し、日本一を達成するが、その82日後に落車により、命が危ぶまれるほどの大けがを負う。5度の大手術と壮絶なリハビリを耐え抜き、2023年4月、奇跡の復帰を果たした。3年間を追ったドキュメンタリー『オートレーサー森且行 ー約束のオーバル ー劇場版』が11月29日(金)より公開。
●作品情報
映画『オートレーサー森且行 ー約束のオーバル ー劇場版』
監督・編集:穂坂友紀
出演:森且行
ナレーション:萩原聖人
配給:KADOKAWA
製作:TBS
11月29日(金)より新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー
公式サイト:autoracer-mori.com