「世界は多角的なんだと知った」老齢ホームレスとの出会い
ある時は「西武ライオンズの二軍監督」。ある時は「千葉ロッテマリーンズの打撃コーチ」。そしてまたある時は「フレンチのシェフ」……コロコロと変わる自慢話を聞いては「きっと半分くらいウソだろうな」と思っていたという。それでも良かった。しんのすけさんとの日々は、プジョ少年にとって、それほど楽しかった。
ところがある日、しんのすけさんがこんなことを言い始めた。
「おれは、握力が200ある。リンゴを握って潰せる」
これを聞いたプジョ少年は、家にリンゴをとりに帰り、しんのすけさんに渡したのだ。
「当時小学校で握力検査をしたばかりで、“200はさすがにウソだろう”と思ってしんのすけさんにリンゴを渡したんですよ。そしたら潰せなかった。
その時のしんのすけさんの顔が忘れられません。バツが悪そうでした。ボクも“潰せないじゃん”と言いながら泣きました」
その翌日から、しんのすけさんはプジョ少年の前から姿を消す。
「あの時どうしてリンゴを渡してしまったんだろう」という後悔が、いまもプジョルジョさんの頭から消えないのだという。
「世界は絶妙なバランスでできてるんだな、余計なことしちゃダメだと思いました。
人の心って多面的なんだな。ひとつのことでくくれないんだろうな、と知りました」
ウソとか、ホントとか。良いとか、悪いとか。人はそんな単純なことでは割り切れない。だから、今日もプジョルジョさんのカメラは、普通の人の姿をどこまでも追い続ける。