「太陽は偉大だなと思いましたね」

『人間の証明』は『Proof of Humanity』のタイトルで英訳版が世界同時発売された。しかも、英訳はチャットGPT(アメリカの人工知能研究所「OpenAI」が開発した、生成AIを用いたAIチャットサービス)によって行われた。出版だけでなく、映画やゲームやインターネットなどのメディアミックスを進めてきた角川氏らしい柔軟な発想である。

「日本で初めてチャットGPTを使った英訳版の本でしょう。外国の人たちにも、ぜひ読んでほしいから英訳版を出したわけですが、チャットGPTを使えば、こうした日米同時出版も容易にできる。今後、チャットGPTによる出版はどんどん増えるでしょう。
 校正はもちろん入念にやりました。アメリカ大使館に勤めていたアメリカ人にチェックしてもらったんですが、内容は正確に伝わりました。感動していましたよ。そして、彼は自分ならこの本のタイトルを『フェイク・ウィンドウ』にしたと言うんです。よく分かっているなあと思いましたね。
 本にも書いていますが、『フェイク・ウィンドウ』というのは、こういうことです。
 独居房の奥には格子がハマった強化ガラスの窓がありました。窓の外は廊下があり、外の景色は見えません。でも、窓の上の部分、2%くらいの隙間から空を見ることができたんです。これを僕は『98%フェイクの窓』と呼んでいました。
 この2%の窓から入っている太陽の光から時間や季節を感じることができるんです。太陽は偉大だなと思いましたね。差し入れてもらった花を独居房にあったバケツに活けて、太陽の光に合わせてバケツを動かしたりもしました。そして、ふと花に話しかけたりするわけです。そこまで孤独だったということです。
 もう自分と同じような犠牲者は出してはいけない。その一念で、僕は自分に残された人生を賭けて『人質司法』をなくすための裁判を闘います」

 現在、角川氏は81歳。今後は本来の出版業に加え、命がけの長い裁判が待っている。さらに新たなプロジェクション・マッピングの事業にも乗り出す予定だという。226日間の勾留という過酷な「CHANGE」を経た今、角川氏は新たなスタートラインに立っている。

(文責/米谷紳之介)

角川歴彦(かどかわ つぐひこ) 
1943年9月1日、東京都生まれ。66年3月に早稲田大学政治経済学部を卒業後、父・角川源義の興した角川書店に入社。「ザテレビジョン」「東京ウォーカー」などの情報誌を創刊し、93年の社長就任後はゲームやインターネットの可能性にいち早く注目してメディアミックスを進め、KADOKAWA(2002年に会長兼CEO就任、13年に商号をKADOKAWAに変更)を三大出版社(講談社・集英社・小学館)に対抗する出版社に育て上げた。22年9月14日、東京五輪のスポンサー選定を巡る汚職事件で逮捕。翌23年4月27日に保釈が認められるまでの226日間、勾留され続けた。24年6月27日、日本の「人質司法」の非人道性や違法性を世に問うべく、国を提訴。同日、手記『人間の証明 勾留226日と私の生存権について』(リトルモア)を出版した。同10月8日に、東京五輪の汚職事件の初公判がはじまった。