「しっかりと呼吸して消化してお伝えするには、2~3週間が必要でした」

──熱意に追いつきたかった。

「追いついてからじゃないと、“お受けします”と言いたくなかったんです。ふたつ返事ではなく、しっかりと呼吸して消化して“よろしくお願いします”とお伝えするには、2~3週間が必要でした」

──これまでの作品では。

「普段、お待たせすることはほぼないです。今回は、まず“私の記憶を空っぽにできるだろうか”という心構えもありました。灯は震災の経験自体はないので。そして、私と違うルーツを持つ人でもあります。私が経験していないものをずっと背負って生きてきた子の話。それもひとつではなく、大なり小なりたくさんある。その揺らぎを、どれだけ染み込ませる覚悟が自分にあるのかという、自分との戦いの時間でした」

──灯は震災直後に生まれたからこその傷を心に抱え、苦しみ続けます。言葉にすると簡単に聞こえてしまいますが、いわゆる「心の復興」について、富田さんはどう考えますか?

「心の復興って、本当にそれぞれの捉え方とスピードがありますよね。この作品に出合う前から、私も震災関連で地元のお仕事とか、お話をさせていただく機会が多くありました。そのときからずっと言い続けてるのは、“つらいとか苦しいに、大きいも小さいもない”ということです」