“つらいとか苦しいに、大きいも小さいもない”の真意

──つらいとか苦しいに、大きいも小さいもない。

「私も自分の経験から“つらいな、しんどいな”と思うことがあります。もちろん、それ以上につらい経験をされている方はたくさんいらっしゃいます。でも私も、本当につらかったし、しんどかった。そこに大きいとか小さいとかはないと思うんです。
 灯は、誰かにとってみたら“震災を経験しなくてよかったじゃん”と思うかもしれないけれど、“あのときは大変だったんだ”と言われ続けることも、つらくてしんどい。それをぶつけるお父さんやお母さんも、つらくてしんどいことをたくさん経験している」

──そうですね。

「ひとりひとりが生きている中で感じていることを否定しない、ということは、この作品を届けていくうえで、とても大切にしてかなければいけないことだと思っています」

──実際に取り組んでみて、灯の人生に入れると実感できたのはいつでしたか?

「本読みをしたときです。スタッフ、キャストの皆さんが神戸に集まってくださって、長田区役所の一室で顔合わせと本読みをしました。実はそのときまで、私、脚本を頭から最後まで続けて読むことができていなかったんです」

──そうなんですね。

「苦しくなってしまって、1回脚本を閉じて30分くらい時間を置いて、もう1回読んでまた止まっての繰り返しでした。でもそのときに“まずは一度流れで最後まで頑張ってみましょう”とやってみて、自分が“ああしなきゃ、こうしなきゃ、こうあるべきだろう”という考えは全部取っ払わないといけないんだと感じました」