「私はあのとき、青山さん(山中崇)が死んでしまうのではないかと思っていました」

──途中、灯がトイレに入って自分の気持ちを落ち着かせるシーンも、映像はトイレのドアを映しているのですが、灯の息遣いが伝わってきてすごかったです。

「灯はクリニックの先生のところで、自分の言葉をノートにつづることを始めました。あそこは、そのノートを見て、灯がどう自分をコントロールしていくかが見えるシーンでもあったと思います。実は、トイレは別カットにして割るので、実際に気持ちを落ち着かせて出てくるまで、どれだけ時間を取っても大丈夫だと(安達)もじり監督に言われてたんです」

──そうだったんですね。

「本編でほとんど切らずに使われているので、実際に中にいたのは3~4分だったと思うのですが、体感としては20分くらいいた感覚でした。20分たとうが30分たとうが、このクルーなら待っていてくれるという信頼がありましたし、あとでカットを割ると思っていたので、何分使ってもいいだろうと。そういう空間と現場作りをしてくださっていました」

──山中さんの演じた青山さんとの事務所でのシーンも壮絶でした。いつも穏やかだった青山さんが、あることで爆発して倒れてしまい、灯が泣きながら介抱します。

「あの場面も、段取りは灯が事務所に入るまでで終わりで、あとは本番でした。1回やってしまったら、灯も青山さんも“1”には戻れないから。どんな倒れ方をするのか分からないので、カメラマンの関(照男)さんは、何かに足が引っかかったら大変だからと、本番前に靴を脱いで、“どんな動きをしても確実に灯や青山さんにカメラを向ける、追いつく”と対応してくださいました。そうした中での撮影でしたが、私はあのとき、青山さんが死んでしまうのではないかと思っていました」