いま思うとなんてアホなことしていたんだって…
ブエノスアイレスには2年間いて帰国。高校時代からバンド活動を始めていたが二十歳の頃にドラマーの大島賢治氏と音楽プロデューサーの平出悟氏との出会いが大きな転機に繋がった。
「二人に出会って音楽に対しての向き合い方ではなく、音楽のツールが変わったという感じでした。二十歳ぐらいの時はドラマーとしてずっと活動していましたが、彼らが女性ボーカルを探しているということで出会ったんです。“歌下手だね、面白いね、ちょっと僕らと一緒に音楽やらない?”みたいな感じで誘っていただいたのが最初で、音楽的にも学ぶことがすごく多かったです。ボーカリストとして何をすべきか、どうすべきか、どうやって音楽を作っていくか、歌詞を書いていくか……ということを教えてもらいました」
──音楽をまた一から勉強した……ということですか?
「フィールドが違うんです。ドラマーはやっぱり後ろにいて、そこに牙城のようなドラムがあってそれを操っていれば良かったんですけど、ボーカルになった時に素のままステージ上に放り込まれた感じがあったんです。まず精神性です。自分の中に“私を見て、私の歌う言葉を聴いて……”という思いがなかったので。そこからがとても大変でした。音楽というよりは自分自身の表現の仕方みたいなところを根本的に変えていかなければならなかったので。その為に“こうしたら良いんじゃない”“この人を見てみたら”と、たくさんの助言を戴いたんです」
最も憧れたのはジャニス・ジョプリン。アメリカのロック界に革命をもたらしたと言われ、27歳でこの世を去った伝説の女性ロックスターだ。近年のディオールのCMで流れる『クライ・ベビー』はジャニスの代表的なナンバーで、そのパワフルな歌声は誰もが一度は耳にしたことがあるはずだ。
「彼女みたいな声になりたくて、お酒を飲んでからスタジオに入って、2、3時間ずっと叫んで帰って寝る……というのをやっていたんですけど、見事に喉を壊して、しばらく歌えなくなりました。いま思うとなんてアホなことしていたんだって思いますけどね(笑)」
2012年にドラムヴォーカリストとして鮮烈なデビューを飾ったシシドさんは、その後俳優としても活躍。最新出演作、劇場版『トリリオンゲーム』では、映画の舞台となるカジノリゾートの謎の女性ディーラー、ラモーナ・タキガワを演じている。そのどこかミステリアスな雰囲気はシシドさん自身が持つクールビューティなイメージとも重なる。
モデルやナレーション、コメンテーターなどもこなし、その多才ぶりに誰もが憧れる存在となったシシドさんだが、モデルの仕事を始めたきっかけは意外なことだった。
(つづく)
シシド・カフカ(ししど・かふか)
メキシコ生まれ。ドラムヴォーカルのスタイルで2012年「愛する覚悟」でCDデビュー。2013年にファーストアルバム『カフカナイズ』を発売。以降セッション・ミニアルバムを含む4枚のアルバムをリリース。また、俳優としては2014年「ファーストクラス」(フジテレビ系)を皮切りに、2017年NHK連続テレビ小説「ひよっこ」に出演し話題を集め、2020年にはNHKドラマ10「ハムラアキラ〜世界で最も不運な探偵〜」にて主演も務めた。NHK BSプレミアムで放送されている「巨樹の国にっぽん」シリーズをはじめ、ドキュメンタリー映画や番組でのナレーションも務めるなど、多方面で活躍中。2018年にはアルゼンチンに留学してハンドサインを学び、同年よりリズム・プロジェクト「el tempo(エル・テンポ)」をディレクションしており、2021年に東京パラリンピックの閉会式に出演したことでも話題となった。
【作品情報】
劇場版『トリリオンゲーム』
出演者: 目黒 蓮 佐野勇斗 今田美桜 福本莉子
鈴木浩介 竹財輝之助 あかせあかり 原 嘉孝 津田健次郎/
シシド・カフカ 田辺誠一 石橋 凌 / 吉川晃司 國村 隼
原作: 稲垣理一郎/作画:池上遼一 『トリリオンゲーム』(小学館 ビッグコミックスペリオール 連載)
監督: 村尾嘉昭
脚本: 羽原大介
主題歌: Snow Man 「SBY」 (MENT RECORDING)
公開: 2 月14 日(金)全国公開
配給: 東宝
(c) 2025 劇場版『トリリオンゲーム』製作委員会
(c) 稲垣理一郎・池上遼一/小学館
公式サイト https://trilliongame-movie.jp/