すっとその場に溶け込み、重心のある色気を放つ。第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞などに選ばれた『火口のふたり』や、第31回日本映画批評家大賞主演女優賞ほかに輝く『由宇子の天秤』など、スクリーンに愛されてきた瀧内公美。このところはテレビドラマでも引っ張りだこ。年々輝きを増す瀧内さんのTHE CHANGEとは――。【第1回/全3回】
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インタビュー前に行われた、マンションの階段踊り場での写真撮影。都内一角にあるスタジオの階段が、瀧内さんが立つだけで、物語を持ち始めた。
立て続けに出演作の続く瀧内さん。最新主演映画『奇麗な、悪』は、芥川賞作家・中村文則さんの短編小説「火」を原作とする異色作だ。“異色作”としたのは、精神科医院を訪れた女性が、自身の半生を「ひとりで語る」その時間をただひたすらに見つめる物語だからである。監督は『うなぎ』『地雷を踏んだらサヨウナラ』ほかのプロデューサーとして知られる奥山和由。
「最初にお話をいただいたときは、“え、奥山和由さんって、あの奥山和由さん?”と驚きました(笑)。映画人ならだれもが知っていて当たり前の方ですから。数々の名作を作られてきた方。私は北野武監督作品がとても好きなので、あの初期の作品(『その男、凶暴につき』『3-4×10月』『ソナチネ』)を手掛けられていた方というイメージでしたね。
そこから、企画書といただいた脚本を読ませていただきました。もともと中村文則さんの短編小説がベースで、精神科医の語りから主人公の彼女の話がスタートしていくものの、これを本当にひとりだけでやっていくのかと。“幼いころ自分の家に火をつけた”と言って語り始める彼女の人生自体もなかなかハードなことですし、感情も喜怒哀楽すべてが詰め込まれていて、それをひとりでずっと喋っていくわけです。この話をするときは“精神科医役の方がいてくれるのかな?”と考えたり。そもそも単純に“これを映像化するって、どうやるんだろう?”と思いました(笑)」