演じる際、自身の中に役の答えがないときは

 2000年に劇団に入団し、2002年に映画に初出演。2004年には映画『月とチェリー』で主演にも抜てきされる。舞台に限らず映像でも活躍の場を広げていった。そんな中で、この役との出合いが大きかったというものはあったのだろうか。

「ヘレン・ケラーのお母さん役ですね(舞台『奇跡の人』/2019年)。とっても難しかったんです。でも、それをやれたのはとても良かったと思っています。お金持ちのお母さんで、娘のことを思って、どうすればいいのかわからない中でサリヴァバン先生に“娘をお願いします”と懇願するシーンが何回やってもうまくいかなくて。
 演出の森(新太郎)さんから“おまえ、懇願したことないだろ”って言われました。考えたら確かに私、懇願したことないなと思ったんですよね(笑)。でも、やらなくちゃいけないので、そこでいろいろなことを考えたし、挑戦したし、それはすごくいい時間でした」

江口のりこ 撮影/有坂政晴

 自身の中にない“懇願”を演じるという経験、何をきっかけに乗り越えたのか……。

「“懇願する”をどうつかんだか……ですか。それは、森さんと一生懸命考えたんですけど、森さんが、“おまえがいま一番大切にしてるものって何?”って言うから、“車ですね”って答えて。で、“じゃあ、誰かに車を貸すことにしよう。そのときに、絶対傷つけないで大事に使ってねって言うだろう……”みたいな例え話を出してくれたんですけど、ふたりとも“……”ってなって、“これ違うな”って(笑)。だから結局どうしていいのかわからない状態で、全然うまくいかなくて。
 でもやっぱり、最後は想像力ですよね。想像力が自分を助けてくれる。だってね、人を殺す役、っていっても殺すわけにいかないし、それって想像。物語って全部そうだと思うんですけれども、何かそういう基本的なことに立ち返って演じられた、そんな舞台でしたね」

江口のりこ(えぐち・のりこ)1980年4月28日生まれ、兵庫県出身。2000年劇団東京乾電池に入団。2002年に映画『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』でデビュー。2024年第75回芸術選奨文部科学大臣新人賞を演劇部門で受賞。主な作品に『SUPER RICH』(フジテレビ系)『鎌倉殿の13人』(NHK総合)『ソロ活女子のススメ』(テレ東)シリーズ、映画『お母さんが一緒』『愛に乱暴』『あまろっく』(すべて2024)など、多数作品に出演。現在は連続テレビ小説『あんぱん』(NHK)、『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系)、『ソロ活女子のススメ5』へ出演中。

パルコ・プロデュース 2025『星の降る時』

作:ベス・スティール
翻訳:小田島則子
演出:栗山民也
出演:江口のりこ 那須凜 三浦透子 近藤公園 山崎大輝 八十田勇一/
西田ひらり 佐々木咲華 下井明日香/秋山菜津子 段田安則

公演スケジュール:
5月10日(土)~6月1日(日)   東京・PARCO劇場(渋谷PARCO 8F)
6月8日(日)   山形・やまぎん県民ホール
6月12日(木)~6月15日(日)   兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
6月21日(土)・6月22日(日)   福岡・キャナルシティ劇場
公式サイト:https://stage.parco.jp/program/tillthestarscomedown/

パルコ・プロデュース 2025『星の降る時』