リラックスして臨んだ『おもいで酒』青天の霹靂のような出来事が

 ところがある日、信じられない話が飛び込んできた。大阪のとある有線放送で『おもいで酒』が1位になっているというのである。

「1位なんて、それまで聞いたことがないランキングだし、そもそも演歌には“酒”が曲名に付く歌がたくさんあるから、何かの間違いじゃないかと思いました。それでね、笑っちゃうんですけど、自分でその有線放送に電話したんですよ。“いまの1位の曲は何ですか?”って(笑)。
 そしたら『おもいで酒』だって言うんです。それでもまだ信じられないから、今度は“歌っているのは誰ですか?”って聞くと“小林幸子です”って……。わたし、あまりにもビックリして受話器を2回見ちゃいました(笑)」

小林幸子 撮影/有坂政晴

 やがて『おもいで酒』は大阪だけではなく、全国に広まっていく。ヒットの兆しを逃すまいと、レコード会社はキャンペーンを提案。しかし、小林幸子にとってキャンペーンはつらい思い出しかなかった。

「わたしにとってのキャンペーンは、レコード店の前で買い物帰り、お勤め帰りの人に“お願いします!”と頭を下げて集まってもらい、歌い終わった後に即売会をやると、その人たちがサーッといなくなるというもの。その後、路上に捨てられた歌詞カードを拾い集めることが何よりつらかった。ですから二度とやりたくないと断りました」