最近はあのときしくじってよかったなって

 ふとさみしげな表情で、「でもなんか、ずっと、過去に戻りたかったんですよ」と漏らす。

「あの日から1年か2年くらい、“あ、あの日に戻りたいな……”って。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、初めて観たんですね、2020年に。そのときに、話が頭に入って来なかったんですよ、“俺はあの日に戻りたいな”ってずっと思っちゃって。でも、最近はあのときしくじってよかったなって。あの失敗をしてよかったなって。松本さんには申し訳ないですけど、あの失敗がなかったら死んでたかもわからんから」

ーーどういうことですか?

「たとえば僕は財布を川に投げるんですけど、酔っ払って。ま、その話は置いといて、急に道路に飛び込んだり、なにしてたかわからないですよ。警察に捕まって芸人できへんってなったかもしれないし」

ーーこのままいくと、酔っ払ってさらにとんでもないことをしでかしていたかもしれないと。

「はい。あのとき千原兄弟さんから“もう飲むな”って言われて、最初は嫌やったんです。苦しかったんですけど、やっぱり自分と向き合ったときに、これじゃあかんわって。それでお酒をやめたのがデカかったですね。酒をやめたことも転機のひとつです」

 自身の酒癖の悪さに打ちひしがれた一方、千原ジュニアさんの紹介で吉本に所属したのもこの時期だったが、「えげつないくらい仕事がなかった」ことにも絶望した。

「吉本に入ったんですけど、芸歴10年以上でくすぶってるやつらのライブみたいなのがあるんです。AクラスからDクラスまであるとしたら、Dまで落ちてお客さん1人の前で20組くらいでやるみたいなライブで。あるとき、僕の前におこめちゃんっていう女の子が、思いっきり言うたらあかん言葉、女性の大切なところを昼間から叫んでて。その次が僕の出番で、それで“俺はなにしてるんやろう、こんな昼間から”って。ほんで“なんでこの子は、お客さん1人の前でこんな3文字を叫んでんだろう。あ、これは彼女なりの、いまの自分に対する怒りなのなあ”……とかいろいろ思ってたら、ここ吉本だよな!? 地下ライブじゃないよな!? って」