答えは彼ら彼女らの中から出てきた。それがすごく嬉しかった
ーー産婆術と呼ばれる方法で、自分も数学を知らないのに、数学を知らない別の人を呼んで質問したりおもしろがってるうちに、新たな図形の定理を発見した例もあるようですね。
「そういう意味で、今回、私が小学生相手にやりたかったのは、たぶんそういうソクラテス的なことだったんです。たとえば、点々がつく文字とつかない文字があるのはなんでですか、って事前に小学生に聞かれていたんですよね。
じゃあ、そもそも点々ってなんなんだろう、っていう疑問から一緒に考えてみよう、となりまして。そのために「カ」「カ」「カ」と「ガ」「ガ」「ガ」だと発音の仕方がどう変わるのか、って実際にみんなでやってみたら、口の中の動きは変わらない、ほとんど一緒じゃんって言ってくれて。そこにすでに、子どもたちの中に一つの気づきがありました。
「タ」「タ」「タ」と「ダ」「ダ」「ダ」も同じだ、ほとんど同じ、って答えてくれた。
そこで、点々をつけても口の中の動きはあんまり変わらないっていうことに気づいた。自分たちの力で、その気づきにたどり着いたわけですよ。
じゃあ、今度は「カ」と「ガ」、「タ」と「ダ」どこが違うかじっくり考えてごらんって言ったら、「のど!」ってちゃんと言ってくれる子がいて。「ガ」の時はのどが震えてて、「カ」の時はのどが震えていない。だからその点々っていうのは、のどの震えを表すんだね、っていうことも、わかったんですよね。
それはでも、私が一緒に考えてみようって言っただけで、答えは彼ら彼女らの中から出てきた。私が答えを教えたわけじゃないんです。それがすごく嬉しかったですね」