人間の幸福のために科学技術を進歩させればいい、という考えは間違ってる

「科学技術の進歩と人間の幸福度は比例しない、というデータもあります。まぁ、科学技術の進歩を否定しているわけではないんですけども、人間の幸福のために、科学技術を進歩させることだけを考えれば良い、という考えは間違ってる。科学技術が万能薬ではないってことですよね。逆に、人間が置いてきぼりになっていって科学技術のことばかり考えている現代が危機的状況だなと思っていて。

それを食い止めるためには、やっぱり好奇心に基づいて、

なんで言葉を喋るんですか?
どうやって言葉を喋るんですか?
どんな時に言葉が通じないんですか?

とか(※取材スタッフが研究していた)

人間ってなんでひと目ぼれするんですか? 
なんで人を好きになるんですか?

っていうようなことを、じっくり考えられる人たちがいないと、将来絶対おかしくなる」

ーーさっきのチャットGPTの話もそうですけど、新著の中で「新聞を読んで言葉を覚える子どもはいない」と川原さんは言ってますね。

 当たり前のことなんですけどね、子どもは耳から周りの大人が喋っているのを聞いて言語を覚えるわけです。この点は、言語の根本といえば根本なんですよ。話を戻せば、チャットGPTに子育てさせたり、赤ちゃんへの語りかけを任せようとする親が出てもおかしくないんだけども、いやそれは違うんだ、と。
 チャットGPTは新聞のような書かれたデータから言語を学んでいる。人間の言語っていうのは、音から耳で聞いて覚えるものだから、その点においてチャットGPTとは決定的に違うんだよ、って。当たり前のことなんだけれども、忘れてほしくない」

川原繁人 かわはら・しげと
1980年生まれ。1998年国際基督教大学に進学。2000年カリフォルニア大学への交換留学のため渡米。1年間の留学生活を通してことばの不思議に魅せられ、言語学の道へ進むことを決意。卒業後、2002年に大学院修行のため再渡米。2007年マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。米国で教鞭を執ることになり、ジョージア大学助教授、ラトガーズ大学助教授を経て、2013年より慶應義塾大学言語文化研究所に移籍。現在、教授。専門は音声学・音韻論・一般言語学。過去の著作に『「あ」は「い」より大きい!?:音象徴で学ぶ音声学入門』(ひつじ書房・2017年)、『フリースタイル言語学』(大和書房・2022年)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社・2022年)がある。新刊、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を2023年7月21日に上梓。10月には自身のラップ研究をまとめた『言語学的ラップの世界(feat. Mummy-D, 晋平太、TKda黒ぶち、しあ)』を東京書籍より発刊予定。

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『Keep on Dreaming』(双葉文庫/定価748円)
戸田奈津子、金子裕子

映画字幕翻訳の第一人者、戸田奈津子が語る自伝ノンフィクション。
人生のほとんどを“映画=夢”に捧げ、現在も走り続ける。昨年通訳引退を宣言したが、「トップガン マーヴェリック」も手掛け、字幕翻訳者としてはまだまだ現役。戦争体験、長い下積み、ハリウッドスターとの華やかな交友…。これまで語られることのなかった素顔とは?
2014年に刊行された単行本に加筆修正を加え、待望の文庫化。