音楽と出合い表現することが、自身のアイデンティティに

 自信を持てなかったクリスタルさんを支え、励ましてくれたのは母親だった。そんな母の強さが、ときに彼女にはまぶしく感じたこともあったという。

「ママは、すごく自分の出自に誇りや自負がある人なんですよ。在日として育ち、学校は朝鮮学校に通っていたからかもしれません。大人になってからはクラブなどで歌うシンガーをしており、その後父親と出会い、黒人とのハーフの子を産みました。どう考えてもキツい道を歩んできたと思うし、だからこそアイデンティティもすごく強いものがあるんだろうなと。当然ですよね。
 だから、どこか自信がなさそうな私を気にかけてくれたし、よく“もっとあなたは自信を持ちなさい”と言って、励ましてくれました。とはいえ、自分らしさを見つけられなかった当時の私は、“そんなことを言われても……”みたいなところもありましたね」

 わずか13歳でデビューした少女に、自分自身を深掘りする時間的な余裕も、おそらく十分にはなかっただろう。仮にそうでなかったとしても、いったいどれくらいのティーンエージャーが自分のルーツを深く掘り下げるだろうか。彼女が人知らず背負ってきたものの大きさを思うと、胸が締め付けられるような思いがした。そんなクリスタルさんの不安を取り除き、自分らしさを与えてくれたのが音楽だったのだ。

「音楽は自分にとって、すごく大きな部分です。ママがシンガーとして歌ってきたことも誇りに思っていたし、お父さんもベースギターを弾いたりしていたので、私の家にはいつも音楽があふれていました。歌って踊ることが自然と大好きになったし、そうやって音楽を通してアウトプットすることが、自分のアイデンティティでもあったのかもしれないなって。
 最近では、ルーツでもある韓国の音楽番組に出演して歌わせてもらったりするようにもなりました。時代がどんどん変わってきたなと感じますし、若い世代を見ていると、国籍とかジャンルとか時代にすらとらわれず、自由に好きな音楽を聴いていますよね。めちゃめちゃオープンでいいなって思うし、そうした場所で音楽が鳴らせるのがうれしいんです」

Crystal Kay 撮影/冨田望