ピンの味を知るということ

 当時は息苦しさのようなものは感じていましたか?

「小さい頃はとてもかわいがってもらっているぐらいの感じでしたが、中学生になると、その感覚も変わりました。当時は寮生活していて、金曜日に実家に帰って日曜の午後に寮に帰る生活をしていたんです。たぶん、私が寮で生活するようになって寂しかったのと、中学生になっていろいろ教えたい気持ちがあったと思うんです。毎週日曜、祖父と一緒にお昼ごはんを食べて買い物につきあうという日々が始まって。中学生なら休日は友達と一緒に遊びたいですし、息苦しいというか鬱陶しく感じた時期はありました。ただ、その日曜のお昼には、いいお店に連れていってくれるんです。いいものを食べて、それとセットでいろいろと教えてくれるみたいな感じで。

 ミツカンには味確認室という、ピン、一流の味を知って開発に活かすため、一流料理店で社員が修業などをする部署があるんです。父(八代目の中埜和英さん)からもピンのものとそうでないものの両方を知ることで、なにがおいしくてなにがおいしくないのかがわかると、よく言われていました。祖父も、私にそのことを教えたかったんだと思います」

 現在の中埜さんのベースには、亡き祖父の教えが色濃くあるようだ。

(つづく)

中埜裕子(なかのゆうこ)
1976年愛知県生まれ。(株)Mizkan Holdings代表取締役社長。江戸時代から続く「ミツカン」の創業家に生まれ、成蹊大学法学部を卒業後、99年に(株)ミツカングループ本社(当時)に入社。16年に(株)Mizkan Holdings専務取締役となり、21年に創業以来初となる女性経営者となり、注目を集める。

ミツカングローバルサイト:https://www.mizkanholdings.com/ja/