常に消えない緊張感が映像から伝わっていたらいいな
タイトルは『私の見た世界』。その言葉通り、物語は常に主人公の目線で進む。不安感もごく普通の日常も、逃走する女性の目線で表現されていく。
「これも私の中でイメージが先行してあったんです。福田和子の逃走の再現ドラマではなく、彼女が見た景色や人物の話だな、と。そうであれば必然的に映像も見た目、見た目で描こうと。そうすると、人の視界って狭いので、スタンダードサイズかな。タイトルもこれかな、みたいな感じで。自分の中の頭の中で浮かんだものをできる限り形にしたという感じです」
役者さんたちの芝居の多くはカメラ目線になる。自身が俳優である石田えりさんにとってはそれが難しいことはよくわかっている。
「やりづらいですよね(笑)。皆さんよくやってくださいました。私は恥ずかしくてそんなできるのかなって感じですから」

描かれる逃走の日々は、非日常で、そこには静かな緊迫感も漂うが、同時に、ごく普通の日常も広がっている。
「日常の時間は当たり前だけど普通なんですよね。お酒飲んで、会話してみたいな。“逃げている”というのがなければ、普通に生活してるわけですからね。だけどその“逃げている”というところがあるので、人の反応には敏感だし、いつも緊張感は消えない。そこが映像から伝わっていたらいいなと思いますね」
映画監督の楽しさ、難しさはどんなところに感じられました?とうかがうと、自嘲気味な言葉と、笑いと、でも飾らないストレートな言葉が返ってきた。
「大変。本当に大変。なんといってもスタッフやキャストとのコミュニケーションが難しい。若くて、学校でいろいろな知識を勉強して、“さあ、これからプロになっていい映画監督になるぞ”っていう夢も希望もある若手の監督さんが目の前にいるならまだしも、私が現れたら、それはもう、女優として落ちぶれて、仕事もないから監督でもやろうかっていう感じじゃないの?っていうマイナスのイメージになるわけですよ。
スタッフも“この人何を撮るのかな”って期待より、今さら女優が映画でも撮るか、っていうシビアな空気感もあったりして。その上、スタイルがあれだから、“何これ?”って感じでしょ。ちゃんと理解してもらってやってもらうのは大変でしたね」