「新聞に“エイズ”という言葉が載る」ってことのほうが嬉しかった
でも、アメリカでは、街に普通にエイズの患者さんがいたし、エイズ予防のCMも普通に流れていました。私は、ちゃんと知識を得て、日本に伝えて、間違いを正さなきゃいけないなと思いました。そこで、エイズのボランティア団体で、アメリカ赤十字社のトレーニングを積み、患者さんのトイレのお世話や、計温など、ホームナースの仕事をさせてもらいました。
日本に戻って、実際にエイズを知ってもらおうと、いろいろな雑誌に売り込みにいったんですが、どこも良い返事をしてくれません。「気持ち悪い」って断られるんです。テレビやラジオのスタッフとの打ち合わせで、「今は何の取材されているんですか」って聞かれると、エイズの話をしても、「それは番組で話さないでください」って言われるんです。
だから、その頃の取材をもとに書いた『私を抱いてそしてキスして〜エイズ患者と過ごした一年の壮絶記録〜』で大宅壮一ノンフィクション賞をいただいたとき、「この受賞が報道されたら、新聞に“エイズ”という言葉が載る」って、そのことのほうが嬉しかったですね (笑) 。
今は作家の他に、真言宗の僧侶、そして高野山本山布教師としても活動しています。
みなさんへのアドバイスですか?
そうですねぇ、私がバッシングを受けていた頃、「このまま私が倒れたら、あいつらの思うツボだ。負けるな負けるな」って、夜中に泣きながら、ジョギングしていたんです。でも、体が疲れたら眠れるようになるし、眠れるとだんだん心も元気になっていくんですよねぇ。心も体も傷んでいるときは、まず体を健康にしてあげたらどうでしょう (笑) 。
家田荘子(いえだ しょうこ)
愛知県出身。日大芸術学部放送学科卒。高野山大学大学院修士課程修了。『私を抱いてそしてキスして~エイズ患者と過した一年の壮絶記録~』(文藝春秋)で、第22回 大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『極道の妻たち(R)』『バブルと寝た女たち』などの作品が映像化されている。作家活動以外にも、僧侶になり住職の資格を持ち、高野山でも法話を行っている。また、ノンフィクションユーチューバーでもある。
『花魁仕置人 藤紫』
舞台は、善と悪、義理と人情、男と女が交錯する江戸・吉原。浅草川に浮かんだ花魁と同心の亡骸。呉服店出雲屋の三代目・お紫麻は、二人の汚名をそそぐと心に誓う――。
家田荘子・著
定価1870円(白秋社)
10月1日発売